映画『哀愁しんでれら』ネタバレ解説とラスト結末。怖い事件の最後はグリム童話的なストーリーテリングで支配する

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映画『哀愁しんでれら』の作品情報

『哀愁しんでれら』は、2021年2月5日に公開された日本映画です。「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」でグランプリを獲得した企画を基に、『かしこい狗は、吠えずに笑う』の渡部亮平監督がオリジナル脚本で映画化しました。

主演は土屋太鳳、共演に田中圭、子役として注目のインスタグラマー・COCOが抜擢されました。その他、山田杏奈、石橋凌らが脇を固める豪華キャストです。上映時間は112分。

ミステリアスなタイトルからは一体どのような物語が展開されるのか想像もつきませんが、新しい「シンデレラ」の物語をホラーテイストで描いた、スリリングな作品となっています。

映画『哀愁しんでれら』のあらすじとネタバレ

幸せの絶頂から一転、どん底へ

(C)C&Iエンタテインメント株式会社

児童相談所で働く主人公の小春は、ある日、家族から一気に幸せを奪われてしまいます。祖父の介護のため父が運転する車が事故を起こし、父は警察に連行されてしまいます。そんな時、小春は泥酔した男性・大悟を助けます。

シンデレラストーリーの始まり

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小春を気に入った大悟は、彼女の家族の面倒を見始めます。やがて2人は結婚し、大悟の一人娘・ヒカリと一緒に暮らし始めることになりました。一見幸せそうな3人ですが、そこには歪んだ愛情が蠢いていたのです。

歪んでいく三人の関係

大悟とヒカリには、小春には理解し難い部分がありました。ヒカリは、自分の気に入らない友達を「ゲームオーバー」にしたと言い出します。大悟もまた、異常なまでの支配欲を見せ始めます。小春はそんな2人に少しずつ毒されていきます。

現実と狂気の境目が曖昧に

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大悟の「趣味の部屋」を見つけてしまった小春は、そこでグロテスクな絵画や剥製を目にします。現実なのか悪夢なのか、小春には区別がつかなくなっていきます。夫と義理の娘に洗脳されるようにして、小春もまた非日常の世界へと引きずり込まれていくのです。

哀しみに染まる結末

最後に明かされる衝撃の真相。小春は精神の均衡を完全に失ってしまいます。彼女はヒカリのために、大悟とともに凄惨な計画を実行したのでした。映画は小春がヒカリに語りかけるシーンで幕を閉じます。彼女の表情は、もはや正気とは言えないものでした。

『哀愁しんでれら』の見どころ・名シーン

ヒカリの異常性が垣間見えるシーン

ヒカリが学校の給食を残したことから、大悟と小春がその担任教師を問い詰めるシーンは、ヒカリの非日常が垣間見える重要なシーンです。

またヒカリが、嫌いな同級生のことを「ゲームオーバーにする」と言い出すシーンからは、彼女の歪んだ価値観が感じられ、ゾッとさせられます。

小春がヒカリを叩くシーン

大悟の「趣味の部屋」を荒らしたヒカリを、小春は思わず叩いてしまいます。自分でも信じられない自分の所業に小春は戸惑いますが、それ以上にヒカリを叩いてしまった自分に違和感を覚えるシーンは、小春の変容を如実に表しています。

大悟が趣味の部屋で暴れるシーン

大悟はヒカリのためなら、どんなことでもすると豪語します。自分の趣味の部屋にあるコレクションを破壊しながら、そう叫ぶ大悟の姿はまさに狂気そのもの。このシーンは、大悟の異常性がピークに達した瞬間を描いています。

映画『哀愁しんでれら』で描かれるテーマと監督の意図

「女性の生きづらさ」という普遍的テーマ

『哀愁しんでれら』は、一見非現実的な物語に見えて、実は現代の日本に生きる女性の生きづらさを浮き彫りにしている作品だと言えます。

小春が大悟に出会うまでの過程は、シングルマザーの困難を思わせます。そして家父長制社会の中で、男性に依存せざるを得ない女性の宿命も象徴的に描かれています。

監督は、そんな現代女性の抱える問題を、ホラーという形式を借りて赤裸々に表現しているのです。

おとぎ話の要素を取り入れたホラー演出

『哀愁しんでれら』の物語は、「シンデレラ」をモチーフにしつつ、そこにサスペンスの要素を盛り込んでいるのが特徴的です。

王子様との出会いで人生が変わるシンデレラのように、小春も大悟との結婚で一瞬は幸せをつかみます。しかしその幸せは所詮幻想に過ぎず、結局グロテスクな結末を迎えてしまうのです。

メルヘンの世界観とホラーという一見相反するジャンルを組み合わせることで、人間の本性の恐ろしさを浮かび上がらせる、渡部監督の手腕は見事としか言いようがありません。

『哀愁しんでれら』キャストの演技力

土屋太鳳の繊細な狂気演技

本作で小春を演じたのは、数多くの映画で主演を務める若手実力派の土屋太鳳。彼女はその目力と佇まいで、徐々に正気を失っていく小春を見事に演じきっています。

特に、大悟やヒカリに洗脳されていく過程での、小春の微妙な感情の機微を絶妙に表現。初めは違和感を覚えつつも、次第にそれを受け入れ、むしろ積極的にのめり込んでいく様は、まさに演技の真骨頂と言えるでしょう。

田中圭の二面性が光る好演

大悟役の田中圭も、本作では存在感抜群の演技を見せてくれました。最初は理想の夫と思われた大悟が、実は偏執狂で支配欲の塊だったという設定を、田中は巧みに演じ分けています。

妻子思いの優しい夫を装いながら、その裏で歪んだ愛情を注ぐ大悟。その両極端な姿を自在に行き来する田中の演技は、大悟という人物の本質をまざまざと感じさせてくれます。

子役COCOの存在感

大悟の娘・ヒカリ役を演じたのは、本作が女優デビューとなる子役のCOCO。ネット上で人気のインフルエンサーでもある彼女は、まだ10代前半にも関わらず、ベテランをも凌ぐ堂々とした演技を見せてくれました。

無邪気な笑顔の裏に潜む冷酷さ、大人顔負けの上から目線の態度など、COCOはその表現力でヒカリという難しい役柄を完璧にこなしています。

本作で披露した彼女の演技は、今後の活躍を大いに期待させるものだったと言えるでしょう。

映画『哀愁しんでれら』の評価と受賞歴

口コミやレビューでの高評価

公開当初から映画ファンの間で話題を呼んだ『哀愁しんでれら』は、口コミサイトでも軒並み高評価を獲得しています。

特に、ラストの衝撃的な展開を経て、もう一度作品全体を見直したくなるという声が多数。複雑に絡み合ったパズルのようなストーリー構成が「考察しがいがある」と好評のようです。

また、映画評論家からも「ジャンルの垣根を超えた意欲作」「社会派ホラーの新たな傑作」など絶賛のコメントが寄せられました。

各映画賞での評価

『哀愁しんでれら』は、各映画賞でもその完成度の高さが認められています。

第45回報知映画賞では、作品賞と監督賞をW受賞。さらに、主演の土屋太鳳が女優賞、共演の田中圭と子役のCOCOがそれぞれ助演男優賞、新人賞を受賞し、計5冠に輝きました。

他にも、ブルーリボン賞や日本アカデミー賞などでノミネートされるなど、その高い評価は揺るぎないものだと言えるでしょう。

まとめ:衝撃のネタバレがもたらす新たな映画体験

ネタバレを知った上で見る面白さ

本記事ではあらすじやラストの顛末まで、ネタバレを恐れずに紹介してきました。もちろん、ネタバレを知らずに映画を見るのも一興ですが、この作品に関しては、ネタバレを知った上で見返すとまた違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。

一度結末を知ってから作品を振り返ると、随所に散りばめられた伏線に気づかされるはずです。ラストに向けてのストーリーの積み重ねを再確認することで、この物語の緻密さがより実感できるでしょう。

怖いだけでない、胸を打つ物語

一見ホラー色の強い本作ですが、その根底にあるのは家族愛や人間関係の物語です。

小春はひどい目に遭いながらも、最後まで必死に家族を守ろうとします。大悟はゆがんでいながらも、愛する娘のためならなんでもすると譲りません。そんな登場人物たちの苦悩と愛情に、きっと多くの人が胸を打たれるはずです。

本作は、「怖い映画」というだけでは片付けられない、深い感動を与えてくれる作品なのです。

現代版「シンデレラ」の悲哀を描く

『哀愁しんでれら』は、「シンデレラ」という古典的なおとぎ話のモチーフを踏襲しつつ、現代的な解釈を加えた意欲作です。

幸せな結婚に憧れる女性が、異常な愛情に溺れていく過程は、現代のSNS社会の歪みを反映しているようにも見えます。他人の幸せを妬み、自分もそうありたいと望む。そんな感情が行き着く先の悲劇を描いた本作は、現代版のシンデレラ物語と言えるかもしれません。

「幸せな結婚」という幻想がもたらす恐怖と悲哀。それを鮮やかに描き切った『哀愁しんでれら』は、おとぎ話の新たな可能性を切り開いた傑作だと言えるでしょう。