名作ミステリー「屋根裏の散歩者」のあらすじをの謎を徹底解説!江戸川乱歩の驚愕ラストとは?

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江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」-1925年に発表された問題作

江戸川乱歩の初の長編小説にして、その文学活動の出発点となったのが「屋根裏の散歩者」です。1925年に発表されたこの作品は、窃視症に悩む青年・郷田三郎を主人公とし、彼の抑えがたい変態的欲望と、それに翻弄される姿を克明に描き出しています。

一方で、本作は天才探偵・明智小五郎をも登場させた本格的探偵小説でもあります。謎めいた殺人事件の真相に迫る明智の活躍と、彼と三郎の鋭い心理の駆け引きは、江戸川乱歩ならではの緊迫感を生み出しています。

発表当時、その衝撃的で猟奇的な内容が大きな論議を呼んだ「屋根裏の散歩者」。密室殺人のトリックと奇怪な欲望が絡み合うこの問題作は、ミステリーの枠を超えて人間の深層心理に迫る、先駆的な心理小説としても高く評価されています。大正末期から昭和初期にかけての退廃的雰囲気と、ドイツ表現主義の影響を色濃く反映した作品として、日本の文学史に確固たる地位を築いた記念碑的な1編です。

「屋根裏の散歩者」あらすじ①-序盤の伏線を解く

孤独な青年・郷田三郎の奇妙な「犯罪」嗜好とは

物語の主人公・郷田三郎は、21歳の一見平凡な青年です。しかし彼は生まれつき病的なまでに退屈しやすい性格で、どんなことをしても長続きしません。若くして職を転々とし、女性関係にも興味が持てない日々を過ごしていました。

そんな三郎が、ある日偶然出会ったのが天才探偵の明智小五郎でした。明智から数々の奇妙な犯罪心理や謎解きの手口を教わるうちに、三郎は強い興味を抱くようになります。やがて探偵の助手として事件解決に協力する中で、彼の中に眠る狂気じみた犯罪嗜好が静かに芽生え始めるのです。

名探偵・明智小五郎登場!三郎の運命を変える出会い

ある夜、自宅に戻った三郎は、下宿先「東栄館」の屋根裏に偶然迷い込みます。そこで彼は思わぬ発見をします。天井に開いた小さな穴から、他人の部屋の様子がのぞき見できることに気づいたのです。

好奇心から覗き見を繰り返すうちに、三郎はその行為の背徳的な快感に取り憑かれていきます。ついには、屋根裏を這いずり回っては住人たちの私生活を盗み見る、いわゆる「屋根裏の散歩者」と化していくのです。

「屋根裏の散歩者」三郎、天井裏を這う不気味な影

ある日、三郎は同じ下宿の住人・遠藤と言葉を交わす中で、ふとした遠藤の言葉から、自分が「屋根裏の散歩者」と呼ばれていることを知ります。自分の秘密の行動を知られた動揺と、それを指摘された不快感。三郎の中で、遠藤への複雑な感情が芽生え始めます。

アルバイト先の探偵事務所での刺激的な日々。屋根裏に忍び込んでは繰り返される、背徳的な覗き見行為。外面は平凡な青年のままの三郎の内面に、歪んだ欲望の炎がメラメラと燃え上がっていきます。そして、彼の奇妙な行動が招く悲劇の予兆が、静かに物語の表面に浮かび上がってくるのです。

「屋根裏の散歩者」あらすじ②-殺人へと向かう3つの出来事

遠藤の部屋を物色する三郎、運命の毒薬を発見

ある夜、三郎は密かに遠藤の部屋へと忍び込みます。部屋を物色していた三郎は、遠藤が大切にしまっていた1本の薬瓶を発見します。それは青酸カリ。以前、遠藤が女性との心中に使おうとしていた猛毒でした。

遠藤への嫌悪感から、その毒薬を盗み出した三郎。彼の脳裏にある恐ろしい考えが浮かんできます。「この毒薬で、遠藤を殺してやろう」。かつて明智から教わった数々の犯罪の手口が、三郎の中で生まれた殺意と結びつき始めるのです。

密室殺人トリックの全貌!逆転のアリバイを暴く

三郎は周到に殺人計画を立てていきます。方法は、「屋根裏の散歩者」ならではの、誰にも気づかれない完全犯罪。眠りについた遠藤の口が開くのを屋根裏から窺い、そこへ毒を垂らすという恐ろしい方法でした。

計画を実行に移した夜、三郎は静かに天井裏を這って遠藤の部屋へ向かいます。下の窓から漏れる寝息を聞きながら、開いた口元を狙って、そっと毒薬を滴下するのです。翌朝、遠藤の死体が発見された時、誰もがそれを自殺だと思い込んでいました。完全犯罪は成功したかに思われました。

天才探偵・明智、眠れぬ謎に挑む

事件の知らせを聞いた明智は、現場の状況になにか違和感を覚えます。遺体の状況や、発見時の室内の変化のなさ。そして、ふと気づいたのが殺害方法の可能性でした。

「もしかしたら、この密室は人為的に作り出されたのではないか。遠藤を殺害したのは、屋根裏から毒を注入した人物ではないのか」。名探偵の勘が、静かに三郎へと向かい始めます。真相を掴むため、明智は三郎への巧妙な罠を計画し始めるのです。果たして、疑惑の目を向けられた三郎の運命は。物語はクライマックスへと向かっていきます。

「屋根裏の散歩者」あらすじ③-衝撃のラストシーン

明智が仕掛けた巧妙なワナ、物語は意外な結末へ

明智の計略により、三郎は遂に自分の犯行を認めざるを得ない状況に追い込まれます。ある日、明智から呼び出された三郎が向かった先は、事件のあった東栄館でした。

そこで明智は、驚くべき事実を明かします。実は彼も事件前から、三郎と同じく屋根裏を這い回っていたのです。三郎の犯行の瞬間を目撃していた明智は、確かな証拠として「シャツの釦」を取り出します。

探偵vs.犯人、息を呑む心理戦の行方は?

「これは君が遠藤を殺害した夜、屋根裏で落とした釦だよ」。明智の言葉に、三郎は騙されたと気付きます。明智の証拠は偽物でした。しかし心理戦に敗れた三郎は、ついに「僕が遠藤を殺した」と自供してしまうのです。

動機を問う明智に、三郎は自分の中の殺意と、犯罪への歪んだ欲望を赤裸々に語ります。彼の性癖が引き起こした殺人。その告白は、明智をも戦慄させるものでした。

全てを知った明智は、三郎を警察に引き渡します。数日後、三郎は殺人罪で逮捕されました。彼の奇怪な嗜好が招いた悲劇の結末。天才探偵と、犯罪に魅入られた青年の、息を呑む心理戦が、ここに終止符を打ったのです。

江戸川乱歩が問う-狂気に駆られた犯罪者の深層心理

「屋根裏の散歩者」という物語を通して、江戸川乱歩が明らかにしたかったのは、一体何だったのでしょうか。それは、誰の心の中にも存在する、恐ろしい欲望や狂気の影ではないでしょうか。

主人公・郷田三郎は、一見平凡な青年でした。しかしその内面に潜んでいたのは、険悪な本能の闇。窃視症からエスカレートした犯罪的欲求は、ついには殺人へと彼を駆り立てます。

三郎に投影されたのは、文明に埋もれた現代人の歪んだ感情の投影とも言えます。法の網をかいくぐれば人は簡単に殺人者になれる。その恐ろしい事実を、江戸川乱歩は三郎を通して読者に突きつけているのです。

「屋根裏の散歩者」が問いかけるのは、人間とは何か、そして心の奥底に潜む狂気の正体とは何なのか。それは1925年に発表された本作が、現代にも通じる普遍的なテーマと言えるでしょう。私たちは日常の裏側に潜む恐怖から、決して目を逸らすことはできないのです。

読む前に知っておきたい「屋根裏の散歩者」の注目ポイント

大正14年の東京が舞台!時代が生んだ社会派ミステリー

「屋根裏の散歩者」が発表された1925年は、大正末期の混沌とした世相を反映した時代でした。関東大震災からの復興が進む一方、モダニズムの影響を受けた退廃的・耽美的な文化が花開いた時期でもあります。

江戸川乱歩は、そんな「大正ロマン」と呼ばれる独特の雰囲気を、存分に作品に反映させています。東京の下町を舞台に繰り広げられる本作には、当時の人々の価値観の変化や、閉塞感漂う社会の空気が色濃く描かれているのです。

また、乱歩が敬愛したエドガー・アラン・ポーの影響も見逃せません。ポーの「黒猫」などにも通じる、官能性と怪奇性が絶妙に融合した文体は、まさに本作の大きな魅力の1つと言えるでしょう。

江戸川乱歩初の長編小説「屋根裏の散歩者」-少年探偵シリーズとの違い

「屋根裏の散歩者」は、江戸川乱歩の代表作「少年探偵団」シリーズとは一風変わった作品とも言えます。ここで登場する明智小五郎は、正義感の強い少年探偵とは違い、どこか毒を秘めた異彩を放っています。

事件の真相に執着するあまり、違法な手段をも厭わない明智の姿は、少年向け作品とは一線を画した、新たな江戸川乱歩ワールドの確立を示しているのです。

また、犯人の心理や行動の動機に深く切り込んだ点も特筆すべきでしょう。緻密に練られたトリックと華麗な推理の応酬。そして犯罪者の深層心理の赤裸々な告白。それらが生み出す物語の奥行きは、まさに現代のサイコサスペンスの先駆けとも呼べる画期的なものでした。

鮮烈な問題作にして記念碑的傑作。江戸川乱歩の文学的出発点を飾った本作は、今なお色褪せない魅力に満ちています。ぜひ実際に本書を手に取り、昭和の闇が織りなす物語の世界をご堪能ください。