江戸川乱歩「二銭銅貨」徹底解説!あらすじから考察までネタバレ注意でお届け

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江戸川乱歩「二銭銅貨」とは?

作品の基本情報

「二銭銅貨」は、江戸川乱歩が1923年に発表したミステリー短編小説です。乱歩の初期の代表作の一つであり、雑誌「新青年」に掲載されました。後に、江戸川乱歩の短編集『心理試験』に収録されています。

ストーリーの要約

主人公の「私」とその友人・松村は、下宿で貧乏生活を送っています。ある日、松村が偶然手に入れた二銭銅貨の中から、謎めいた暗号のようなメモが見つかります。頭の切れる松村は、それが何者かに隠された5万円の在処を示すものだと推理します。実際にメモの指示通りに行動した松村は、ある包みを入手しますが、そこに待っていたのは意外な結末でした。一方、私も松村に隠れてあることを企てていたのです。
貧乏ゆえの欲望、勘の鋭さゆえの独善、謎を解くことへの執着、そして友情。江戸川乱歩らしい諸要素が詰め込まれた、おかしみとペーソスを兼ね備えた短編です。

完全ネタバレ!「二銭銅貨」の詳細なあらすじ

貧乏暮らしの松村と私

「二銭銅貨」は、主人公である「私」が友人の松村と、とある町の安アパートで送る貧乏暮らしの様子から始まります。
大学を卒業したものの、まだ仕事が決まらない二人は、せっぱ詰まった日々を送っています。ただ勘だけは鋭い松村は、退屈しのぎに頭を使った難解な問題を考えることを趣味にしていました。
一方、私は冷静に状況を見つめつつ、松村の思考に付き合うのが常でした。

金庫破りの大泥棒の噂

ある日、町内で金庫破りの泥棒が5万円の大金を盗み出したという噂が広まります。
松村はその泥棒の才覚に感心しきりです。私も松村に負けじと感心したふりをしますが、本当は単なる泥棒に過ぎないと思っていました。
そんな折、松村が古ぼけた机の中から一枚の二銭銅貨を見つけます。よく見ると、その銅貨には妙な仕掛けがあり、中から小さな紙片が出てきたのです。

松村のもとに転がり込んだ二銭銅貨

松村は、私に見つかったことを隠すように、その二銭銅貨をこっそりとポケットにしまいました。
後日、松村はその紙片に暗号めいた文字が書かれていることに気づきます。
「南無阿弥陀仏」の文字を組み合わせた暗号。凡人の私には意味不明の羅列に見えましたが、松村はすぐさま解読に取り掛かります。
松村は、二銭銅貨と暗号が先の大泥棒事件と関係しているのではないかと推測しました。

謎の暗号を解読する松村

松村は、借りてきた点字表などを頼りに、徹夜で暗号の解読を試みます。
そして、ついにその意味を解き明かしました。
暗号の意味は、「五軒町の正直堂から玩具の札を受け取れ。受取人の名は大黒屋」というものでした。
松村は、泥棒が隠した5万円は、玩具の紙幣に偽装されて印刷所に預けられているのだと考えました。彼はすぐさまその印刷所へ向かいます。

五万円を発見した松村

松村は変装して印刷所を訪れ、「大黒屋」を名乗って怪しげな包みを受け取ります。
大興奮で帰宅した松村は、私に包みの中身は5万円に違いないと自慢します。松村の鋭い観察眼と推理力を私は心の中で褒めたたえました。
そして、一攫千金を手にしたと確信した松村は、有頂天になります。

衝撃の真相

ところが、いざ包みを開けてみると、そこに入っていたのは5万円などではなく、ただの「おもちゃの紙幣」でした。
がっかりする松村。一方、私は内心ほくそ笑んでいました。実はこの一部始終は、私が仕組んだ「いたずら」だったのです。

松村の頭の良さをからかってやりたくなった私は、わざと暗号めいたメモを二銭銅貨に忍ばせ、松村を試すことにしたのでした。
私の勘違いを知った松村は、ひどく落胆したことでしょう。

「二銭銅貨」の考察と解説

松村と「私」の友情

本作の主人公「私」と相棒の「松村」は、正反対の性格をしています。
松村は抜群の観察眼と推理力の持ち主で、難解な暗号すら解読してしまう頭脳明晰さが特徴。一方、「私」は冷静沈着で、どちらかといえば現実主義者です。
二人は時に言い争いながらも、ひっそりとした下宿で助け合って暮らしています。貧乏でも気の置けない友人がいることの心強さが伝わってきます。
ただし、今回のいたずらに見るように、互いへの友情は本物でも、ちょっとしたズレは存在するようです。

盗品をめぐる皮肉な展開

印刷所から受け取った包みの中身が「おもちゃの紙幣」だったというオチは、なかなか皮肉が効いています。
盗品の在処を突き止めたつもりが、それは所詮「偽物」だったのです。泥棒から盗み出した金品も結局は紙くずでしかない、というわけです。
犯罪者の欲望とそれを憧れる貧乏人の心情を、江戸川乱歩は嘲笑的に描いています。もちろん、そこには法を犯してまで金に執着する人間への警告も込められているでしょう。

探偵小説としての要素

本作には古典的な探偵小説の要素がふんだんに盛り込まれています。
難解な暗号が事件の鍵を握っていたり、小道具の二銭銅貨が重要なアイテムになっていたり。さらに、一件落着かと思いきや、ラストで思わぬ真相が明かされる手法も、ミステリーの王道と言えるでしょう。
知恵比べのようなストーリー展開も、頭脳明晰な探偵が活躍する作品の特徴をよく表しています。

江戸川乱歩らしい意外な結末

本作の白眉は、やはり「探偵役の敗北」という意外な結末でしょう。
事件を見事に解決したかに見えた名探偵が、実は踊らされていただけだったというどんでん返し。このラストの衝撃は、ミステリーマニアをも唸らせるはずです。

また、ユーモアのセンスが随所に感じられるのも江戸川乱歩の特徴。難解な謎解きの横で、登場人物のおかしみが物語に彩りを添えています。
一見、ありふれた題材の短編ですが、結末の妙と笑いのツボを心得た傑作と評価できるでしょう。

まとめ:「二銭銅貨」から学ぶこと

「二銭銅貨」は、私欲に捉われずに生きることの大切さを教えてくれる作品です。
法を犯してでも金を手に入れようとする欲望は、最後には笑い飛ばされてしまいます。欲に目が眩んだ者たちへの皮肉と諷刺が、ユーモラスに描かれているのです。
同時に、この物語は「友情」の意義も示唆しています。貧乏でも、互いに切磋琢磨できる仲間がいれば、人生の一時を楽しく過ごせる。時にはからかい合える間柄であることも、友情の秘訣と言えるでしょう。
小説という枠組みの中で、人間の弱さと強さ、矛盾と可能性を見つめる江戸川乱歩。彼の描く「人生」は、先入観とは裏腹な意外性に満ちています。
権威に惑わされず、柔軟な発想を大切にする姿勢は、私たち読者も見習うべきかもしれません。名探偵をも欺く巧妙な結末が、そんな江戸川乱歩からのメッセージに思えてなりません。