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「押絵と旅する男」について
「押絵と旅する男」は、日本の探偵小説の巨匠・江戸川乱歩の短編小説です。1929年に発表されたこの作品は、乱歩の代表的なホラー・ファンタジー作品の1つとして知られています。 物語の舞台は大正時代。主人公の「私」と、その兄が所有する不思議な遠眼鏡を軸に、現実と虚構が交錯する怪奇譚が展開されます。 乱歩らしい緻密な描写と独特の世界観が光る本作は、日本の幻想文学の金字塔とも評される傑作です。遠眼鏡を通して垣間見る非日常の世界、そこに描かれた男の妄執と悲哀が読者を惹きつけてやみません。 私小説のような語り口でありながら、そこはかとなく不気味さが漂う文体も本作の大きな特徴。現実と非現実の境界を曖昧にし、ページをめくる手が止まらなくなる小説です。
「押絵と旅する男」あらすじを1分で理解
ある日、「私」は汽車の中で、1人の中年男性が車窓に絵の額縁のようなものを立てかけているのを見かけます。夕暮れ時、その男性は額縁を風呂敷に包んで片付けました。「私」が男性の前の席に座ると、男性は風呂敷の中身を見せてくれました。それは洋装の老人と振袖を着た美少女の押絵細工でした。
男性は、35、6年前に起きた兄の不思議な話を語り始めます。兄は片思いの女性を双眼鏡で覗いていましたが、実はその女性は押絵だったのです。兄は双眼鏡をさかさまに覗いて自分を見ろと言い、双眼鏡の中で小さくなって消えてしまいました。実は、兄はその女性の横で同じ押絵になっていたのです。
それ以来、男性は「兄夫婦」をいろんなところへ連れて行っているのだそうです。ただし、押絵の女性は歳をとらないのに対し、兄だけが押絵の中で歳をとっているのだといいます。
「押絵と旅する男」の魅力と読後感
「押絵と旅する男」の最大の魅力は、何と言っても江戸川乱歩ならではの怪奇幻想世界の創造力にあります。 魂を奪う双眼鏡、非現実の世界に通じる十二階、そして押絵という存在・・・。それらはどれも、現実の只中に置かれた小さな「穴」であり、そこを通って人間存在の深淵が垣間見える装置だと言えるでしょう。 そうした仕掛けを通して露わになるのは、おそらく人間の意識の深層に潜む恐怖であり、また同時に、言葉を絶する美への憧憬なのかもしれません。 そして何より、そのどちらの感情をも貪欲に言葉にしてみせる乱歩の筆致が、読者の背筋を凍らせずにはおかないのです。 日常の裏側に潜む非日常を詩的かつ耽美的に描き上げる手腕。それこそが江戸川乱歩の真骨頂であり、「押絵と旅する男」はまさにそれを遺憾なく発揮した傑作だと評価できるでしょう。 読み終えた後の感慨は、それぞれの読者によって異なるはずです。 中には、物語世界に強く引き込まれるあまり、自意識が揺らいでしまう人もいるかもしれません。また、結末の余韻に浸りながら、改めて人生と芸術の神秘を見つめ直す人もいるでしょう。 いずれにしろ、読後に強い印象を残す作品であることは間違いありません。時代を超えて多くの読者を魅了してやまないこの物語は、やはり文学史に残る傑作の名にふさわしい一編だと言えるのではないでしょうか。