『蠅の王』のあらすじを時系列で解説!登場人物やテーマ、独創性も徹底考察

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『蠅の王』の基本情報

著者と出版年について

『蠅の王』は、1954年に出版されたイギリスの小説家ウィリアム・ゴールディングによる小説です。ゴールディングは1911年生まれで、第二次世界大戦では海軍に所属していました。戦争体験が『蠅の王』執筆の背景にあると言われています。本作は彼の長編小説デビュー作であり、後に彼は1983年のノーベル文学賞を受賞しました。

物語の舞台設定

物語の舞台は、第二次世界大戦中に南太平洋上の無人島に不時着した少年たちを中心に展開します。文明社会から隔絶された環境の中で、彼らは自律的な社会を形成しようと試みますが、次第に野蛮な衝動に支配されていきます。孤島という設定が、人間の本性を浮き彫りにする効果的な装置となっています。

『蠅の王』のストーリーのあらすじ

飛行機墜落から無人島に漂着するまで

戦争中、疎開のために少年たちを載せて移動していた飛行機が南太平洋上で墜落します。機体は大破し、大人は全員死亡。唯一生き残った子供たちは、無人島に漂着します。

ラルフとピギーを中心とした秩序作り

生存者の中の一人ラルフがリーダーに選出され、知恵者的存在のピギーと共に、規律ある共同生活の枠組み作りを始めます。火を絶やさずに煙を上げ続けることで、救助を求めようと試みます。

ジャックの反抗と狩猟隊の結成

一方、ラルフと仲が悪いジャックは次第にラルフの統制に反発を強めていきます。彼は豚を狩る目的で狩猟隊を結成し、ラルフへの対抗勢力として勢いを増していきます。

サイモンの死と秩序の崩壊

争いが深まる中、精神的に繊細なサイモンが、恐怖の象徴とされた「獣」の正体が人間の内なる悪だと看破します。しかしその矢先、興奮状態の少年集団に殺害されてしまいます。

ピギーの死とラルフの追跡

サイモンの死後、ジャックの権力はさらに強大化します。彼らは最後の良心の残滓とも言えるピギーを殺害。完全に野蛮化した彼らは、唯一生き残ったラルフへの殺意を剥き出しにし、島中を追い回します。

救助と文明社会への回帰

絶体絶命のピンチの中、偶然通りかかった軍艦によってラルフは救助されます。泣きじゃくるラルフを前に、将校は困惑を隠せません。少年たちは一連の悲劇を経て、ようやく文明社会へと舞い戻るのでした。

主要登場人物の紹介

ラルフ

金髪碧眼の12歳の少年で、本作の主人公。当初は民主的な手段で他の少年をまとめようとしますが、次第にジャックの野蛮な統治に対抗できなくなります。理性の象徴としての役割を担っています。

ジャック

合唱隊出身の少年で、カリスマ性を発揮して次第に実権を握ります。当初は秩序を重んじるラルフを支持していましたが、狩猟の成功による権力の味を知り、急速に暴走していきます。人間の持つ破壊的な野蛮性の体現者と言えるでしょう。

ピギー

眼鏡をかけた小太りの少年で、物事を客観的かつ理知的に判断する能力に長けています。ラルフを補佐し、最後まで文明的な価値観を説きますが、結局はジャック派に殺されてしまいます。

サイモン

人間の本性や内面について鋭い洞察力を持つ、聖者的な少年。豚の生首に群がるハエの姿に人間の暗部を見出しますが、その直後に誤解されて殺害されます。作中で最も純粋無垢な存在と言えます。

『蠅の王』のテーマと独創性

人間の本性と文明社会


本作は一見、少年たちのサバイバル生活を描いた冒険物語のようですが、実際には人間の本性や文明社会の脆さを風刺した寓話です。無秩序状態に置かれた少年たちが次第に野蛮化する様は、理性の仮面を被った文明社会の内実を暴露しているとも解釈できます。

群衆心理と個人の葛藤

ジャック率いる狩猟隊に代表される群衆心理の恐ろしさも、本作の大きなテーマの一つです。個人の良心が集団の盲目的な暴力によって塗り潰されるさまは、ホロコーストなどの歴史的悲劇を想起させずにはいません。

寓話としての普遍性

南太平洋の孤島という限定的な状況設定でありながら、『蠅の王』が描き出すのは普遍的な人間の姿です。特殊な状況に置かれた登場人物たちの言動を通して、人間の本質や社会構造の脆弱性を浮き彫りにしている点で、本作は他に類を見ない独創性を有しています。

作品の評価と影響

文学賞の受賞歴


『蠅の王』は発表当初こそ、残酷な内容が物議を醸しましたが、やがて20世紀を代表する文学作品の一つとして高く評価されるようになりました。作者ウィリアム・ゴールディングはこの作品を含む一連の業績により、1983年にノーベル文学賞を受賞しています。

他の文学作品への影響

本作は「ディストピア小説」というジャンルを確立した記念碑的な作品とも評されます。無秩序状態における人間の群像劇は、SF小説『ハイ・ライズ』やサバイバルTV番組『LOST』など、後世の多くの作品に影響を与えました。

2度の映画化

作品の持つ力強いメッセージ性は、二度の映画化によっても裏付けられています。1963年にピーター・ブルック監督、1990年にハリー・フック監督によって映画化され、原作の持つ衝撃と普遍性を見事に再現することに成功しました。

まとめ

『蠅の王』は、少年たちの無人島サバイバルを通して人間の本性を見つめ直す、20世紀を代表する寓話小説です。特殊な設定の中に描き出された人間模様は、今日においても色褪せることのない普遍的なメッセージ性を放ち続けており、私たちに文明社会の尊さと脆さを考えさせずにはおきません。