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「猫の事務所」ってどんな物語?簡単なあらすじを紹介
猫が事務所を営むファンタジー世界が舞台
宮沢賢治の短編小説「猫の事務所」は、猫が人間社会のように事務所を営む不思議な世界を舞台にしたファンタジー作品です。主な舞台となるのは、猫の地理と歴史を調査する「第六事務所」。そこでは黒猫の事務長を筆頭に、白猫、虎猫、三毛猫、かま猫の書記たちが働いています。
事務所の仕事は猫の地理・歴史の調査
猫の事務所の主な仕事は、ほかの猫たちから依頼を受け、ある土地の特徴や有力者、旅行の注意点などを調べて伝えること。猫たちの生活に役立つ情報を提供する役割を担っています。4匹の書記たちは、それぞれ担当の書物や原簿を手際よく調べ、事務長に報告します。
差別されるかま猫の四番書記の奮闘物語
物語の主人公は、一番下っ端の四番書記を務める「かま猫」。本来ならば、周りから嫌われる煤けたかま猫が書記になることはありえませんが、黒猫事務長に才能を見出され抜擢されます。しかし、白猫や虎猫、三毛猫は、かま猫を快く思っておらず、彼の活躍を妬んでさまざまな嫌がらせを繰り返します。そんな中でもかま猫は、事務長の期待に応えるべく懸命に働く日々を送るのでした。
「猫の事務所」の登場人物を詳しく解説
黒猫の事務長 – 公平だが、時に判断を誤ることも
事務所のトップに君臨するのは黒猫の事務長です。眼光鋭く、部下たちを適材適所に配置する手腕の持ち主。かま猫を四番書記に抜擢したのも彼の判断でした。しかし、他の書記たちに扇動され、かま猫を冷遇するようになります。公平無私であるべき立場でありながら、部下たちの思惑に流されてしまう弱さも。
一番~三番書記の白猫・虎猫・三毛猫 – 手ごわいライバル
一番~三番書記を務めるのは白猫、虎猫、三毛猫のトリオ。本来ならば協力して事務所の仕事に励むべき彼らですが、内心ではかま猫の活躍を快く思っていません。白猫は探検家の情報、虎猫は旅行の注意点、三毛猫は有力者のデータを担当。手際よく仕事をこなす一方で、かま猫の失敗を願っているようです。特に野心家の三毛猫は、自分が事務長の跡目になりたいと虎視眈々とねらっています。
四番書記のかま猫 – 主人公。不当な扱いに耐えながら事務所のために尽力する
物語の主人公であるかま猫は、黒猫事務長に才能を買われ四番書記に大抜擢されます。周囲の偏見に苦しみながらも、事務所のために日夜働き続ける理想の書記です。温厚で勤勉な性格ですが、そのまじめさゆえに白猫らの嫌がらせの的に。最後は体調を崩して休んだことで、大切にしていた原簿を取り上げられ窮地に陥ります。それでも事務所と事務長のために尽くし続ける健気な姿が印象的です。
物語の流れを場面ごとに詳しく紹介!ネタバレあり
新人書記の募集と選考、四番書記にかま猫が大抜擢
事務所に欠員が出たため、新しい書記を募集することに。応募してきた猫たちの中から、事務長は敬遠されがちなかま猫を四番書記に抜擢します。字が上手く、詩も読める優秀なかま猫を、事務長は評価したのです。しかし、白猫や虎猫、三毛猫は、かま猫を快く思っていませんでした。
事務所の日常と、差別に苦しむかま猫の奮闘
四番書記となったかま猫は、他の書記たちから差別的な扱いを受けながらも、真面目に仕事に取り組みます。ある日、虎猫が弁当箱を落としてしまい、拾おうとするかま猫。しかしそれが気に入らない虎猫は、かま猫に怒鳴りつけ処罰を求めます。事務長はかま猫をかばいますが、徐々に他の書記たちに扇動されていきます。
かま猫の原簿が奪われ、絶望のどん底に
ある日、体調不良で休んだかま猫。しかし事務所では、かま猫が遊びに行ったのだと陰口を叩かれていました。特に三毛猫の中傷はひどく、遂には事務長までもがかま猫を疑うように。出勤したかま猫の前から、大切な原簿が消えていました。同僚たちはそれでも仕事を続け、かま猫は泣きじゃくるばかり。絶望のどん底に突き落とされます。
事務所廃止の危機!獅子の登場で辛くも解散を免れる
そんな中、一頭の獅子が事務所を訪れます。獅子は、原簿を奪い泣き崩れるかま猫と、それを無視して仕事を続ける書記たちの様子を見て、この事務所のあり方はおかしいと言い渡します。結局、事務所は廃止されることとなり、物語は唐突に幕を閉じるのでした。かま猫の運命も、明かされないまま終わります。
作中に込められたメッセージと筆者の思い
差別と偏見の愚かしさ、多様性の尊さを描く
「猫の事務所」では、黒猫の事務長だけが色や見た目に囚われず、かま猫の才能を評価しました。しかし、偏見に満ちた白猫や虎猫、三毛猫は、かま猫を受け入れようとしません。事務長もまた、部下たちの讒言に惑わされ、かま猫を疎んじるようになります。作者はこれらを通して、差別や偏見の愚かしさ、多様性の尊さを描いているのです。
一見の価値で判断することの危うさを警鐘
白猫や虎猫、三毛猫は手際よく仕事をこなしますが、実際は陰湿な性格。一方、見た目は汚いかま猫こそが真面目で有能な働き者でした。こうした描写には、他者を外見や肩書だけで判断してはいけないというメッセージが込められています。私たちは、内面を見抜く目を養う必要があるのです。
組織における協調性の大切さも同時に説く
物語の末尾で、獅子は個人プレーに走る猫たちの様子を見て、この事務所の在り方はおかしいと言い渡します。確かに、白猫や虎猫、三毛猫には協調性がなく、自分の出世ばかりを考えているように見えました。作者はここで、組織にとって協調性・チームワークがいかに大切かを説いているのでしょう。
風刺とユーモアを交えて読者に考えさせる宮沢賢治の筆力
「猫の事務所」を貫くのは、宮沢賢治特有の風刺とユーモアです。擬人化された猫を通して人間社会の問題を浮き彫りにするところなど、作者の卓越した筆力を感じずにはいられません。読み手に深くモノを考えさせる、含蓄のある作品だと言えるでしょう。賢治の独特な世界観を堪能できる一篇です。
まとめ:読後の感想と共に作品の魅力を振り返る
「猫の事務所」は、一見したところユーモラスなファンタジーですが、その実、差別や偏見、組織の在り方について深く考えさせられる作品でした。綿密に構築された猫の世界、風刺の効いた登場人物たち、読者の心に訴えかける主人公の姿。どれをとっても、宮沢賢治の才気と洞察力を感じずにはいられません。
特に印象に残ったのは、周囲から疎まれながらも事務所のために尽くし続けるかま猫の健気な姿です。理不尽な差別に苦しみつつも、最後まで信念を貫く主人公に、思わず涙したくなります。
また、かま猫を通して、人は見た目や立場だけで判断してはいけないと訴えているところも見事でした。現代社会にも通じる普遍的なメッセージを、猫を舞台にしたファンタジーという形で伝えるあたり、宮沢賢治の真骨頂と言えるでしょう。
獅子の言葉で唐突に物語が締めくくられるのは、違和感を覚える方もいるかもしれません。しかしそこには、読者に考えを委ねるという作者の意図が透けて見えるようです。猫たちの世界に何が起こったのか、それぞれが想像を膨らませながら、物語の余韻に浸ってほしい。そんな賢治からのメッセージが感じられるラストだと私は考えています。
「猫の事務所」は、児童文学の枠を超えた普遍的なテーマを、独特の世界観で描き上げた秀作だと言えます。ファンタジーを通して人間社会の本質を見つめる、宮沢賢治文学の真髄がここにあります。ぜひ、多くの方に読んでいただきたい一冊です。