江戸川乱歩の怪奇小説『人間椅子』のあらすじを完全解説!異常な愛情が生み出す戦慄の物語

『人間椅子』の概要と物語の舞台設定

1925年発表、江戸川乱歩の代表的な短編小説

『人間椅子』は、1925年に発表された江戸川乱歩の短編小説です。日本の怪奇小説の金字塔とされる作品の一つであり、一通の告白の手紙から始まる衝撃的なストーリー展開が特徴です。江戸川乱歩らしい緻密な心理描写と、人間の心の闇を暴き出す恐怖のストーリーが織り成す、サイコホラー小説の傑作として知られています。

主人公の女流作家・佳子の書斎が主な舞台

物語の主な舞台となるのは、主人公である女流作家・佳子の書斎です。佳子は才能ある作家として活躍していますが、ある日、一通の奇妙な手紙を受け取ります。その手紙の差出人は、佳子の書斎にある椅子に潜んでいると告白する人物でした。

一通の告白の手紙から始まる恐怖の物語

『人間椅子』は、佳子のもとに届いたこの告白の手紙から物語が始まります。手紙の主は、佳子への異常なまでの愛情を綴りながら、自らが「人間椅子」となって彼女を観察していたことを明かします。この衝撃的な告白から、狂気と愛欲が入り混じる戦慄の物語が幕を開けるのです。

『人間椅子』あらすじ

佳子のもとに届く謎の告白の手紙

執筆に入る前に読者からの手紙に目を通すのが、女流作家「佳子」の日課だった。そんな佳子のもとに「奥様」から始まる原稿用紙の束が届く。それは「私」が犯した罪の告白だった。

「私」の過去 – 貧しい椅子職人時代

腕利きの椅子職人でありながら貧困の底で喘いでいた「私」に悪魔が囁いた。「外人専用のホテルへ納める椅子の中に入り、盗みを働くのはどうか」。悪魔の囁きに耳を貸した私は椅子の中に人が入れるスペースを作成した。「私」は夜々椅子から這い出てホテルを徘徊し、窃盗を重ねた。

人間椅子の製作と窃盗の日々

「私」は椅子の薄革ごしに座った人間、とりわけ女性の感触を楽しんでいた。人間椅子となって様々な女性の感触に溺れる「私」だが妙な物足りなさを感じていた。「同じ日本人に対してでなければ、本当の恋を感じることが出来ないのではあるまいか」。

「椅子の中の恋」 – 異常な愛情の芽生え

そんな折、椅子が売りに出されることを知った「私」は、「日本人に買いとられるかも知れない」と心踊らせた。その願望を叶えるが如く、椅子は日本人の手に渡る。そして、椅子を使うのは、著作に浸る「若く美しい夫人」であった。

佳子との出会いと歪んだ愛情

椅子として夫人を愛する「私」。だがある時、夫人も椅子である「私」を愛しているのではないかと感じ、そして、「私」と夫人は相思相愛ではないかと考えた。「私」はもう自分を止められなかった。自らを知ってほしいという想いを募らせ、夫人、佳子への手紙をしたためたのだ。

佳子への告白の手紙と物語の結末

手紙の内容のあまりの恐怖で書斎から逃げ出した佳子のもとに、「私」と同じ筆跡の手紙が届く。そこには、先に送った「私」の「創作」を批評してほしいと書かれていた。そして、物語は、不気味な余韻を残して幕を閉じる。

『人間椅子』が描く愛情の歪みと人間の闇

限りない愛情が生み出す、常軌を逸した行動

『人間椅子』の「私」が佳子に抱く愛情は、常軌を逸したストーカー行為へと昇華します。「私」は、佳子への限りない愛情ゆえに、彼女を監視し、所有したいという欲求にとらわれます。この物語は、愛する人を独占したいという欲望が、いかに恐ろしい狂気を生み出すかを浮き彫りにしています

愛する人を独占したいという欲望が引き起こす狂気

「私」の佳子への愛情は、彼女を一方的に所有したいという歪んだ欲望によって歪められています。「私」は、佳子の日常を盗み見ることで満足を得ようとしますが、それは相手の意思を無視した、独善的な行為です。『人間椅子』は、愛する人を独占したいという欲望が、真の愛とはかけ離れた狂気を引き起こすことを示唆しています。

一見正常な日常の裏に潜む、人間心理の闇

佳子は、「私」が椅子に潜んでいることに気づかず、平穏な日常生活を送っています。しかし、その一見正常な日常の裏では、恐るべき狂気が潜んでいたのです。『人間椅子』は、誰もが抱える心の闇が、時として恐ろしい形で表出する可能性を描いています。私たちは、他者の心の内を知ることはできません。平穏な日常の裏に、想像を絶する狂気が潜んでいるかもしれないのです。

まとめ:江戸川乱歩が放つ衝撃のサイコホラー『人間椅子』

倒錯した愛情が生み出す恐怖と戦慄の物語

『人間椅子』は、愛情の名を借りた倒錯した欲望が生み出す恐怖を描いた、江戸川乱歩の代表作です。「私」の歪んだ愛情は、佳子を恐怖のどん底に突き落とします。ページをめくるごとに増していく不安と絶望、そして衝撃のラストが読者の脳裏に焼き付きます。

ラストの衝撃の展開が読者の脳裏に深く刻まれる

物語のクライマックスで明かされる真実は、読者に大きな衝撃を与えます。佳子の平穏な日常は、恐るべき狂気に蝕まれていたのです。ラストのどんでん返しは、読者の想像力を大いにかき立て、物語の余韻を引き立てています。『人間椅子』の結末は、読後も長く読者の脳裏に居座り続けるでしょう。

人間の心の闇と愛の狂気を鮮やかに描き出した、怪奇小説の金字塔

江戸川乱歩は、『人間椅子』で人間の心の闇と愛の狂気を見事に描き出しました。誰しもが持つ負の感情や欲望が、極限まで達すると何が起こるのか。『人間椅子』は、人間心理の恐ろしさを赤裸々に描いた、サイコホラーの金字塔と言えます。
江戸川乱歩ワールドの入り口に最適な一編であり、怪奇小説の真骨頂を味わえる傑作です。ぜひ、本編を手に取って、『人間椅子』の世界に浸ってみてください。