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映画「哀れなるものたち」ってどんな映画?
「哀れなるものたち」作品概要
『哀れなるものたち』は、ギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーン主演によるシュールなSFロマンティック・コメディです。原作は、スコットランドの作家アラスター・グレイが1992年に発表した同名小説。ビクトリア朝のロンドンを舞台に、パラレルワールドで繰り広げられる型破りな物語が描かれます。
人造人間の女性ベラ・バクスターと、彼女を生み出した科学者ゴッドウィン・バクスター、そして医学生マックス・マッキャンドルスの3人を中心に、人間の本質や科学と倫理の問題が問われていきます。一風変わったキャラクターたちが織りなす、ブラックユーモアに富んだストーリー展開が見どころです。
物語の舞台と時代背景
『哀れなるものたち』の物語は、19世紀後半のヴィクトリア朝を思わせるパラレルワールドのロンドンが舞台です。蒸気機関や工場の描写から産業革命期の影響が感じられ、ゴシック様式の建物が立ち並ぶ独特の世界観が構築されています。
一方で、現実のヴィクトリア朝とは異なり、人造人間を生み出すほどの科学技術が発展している点では空想的な設定になっています。科学万能主義と因習的な価値観がせめぎ合う、シュールレアリスムとダークファンタジーが融合した不思議な世界が物語の背景として描かれています。
「哀れなるものたち」の主要登場人物
ベラ・バクスター: ヒロイン
ベラ・バクスター(演: エマ・ストーン)は、外科医ゴッドウィン・バクスターによって蘇生された人造人間の女性です。幼児のような知能レベルから始まり、瞬く間に言葉を覚え、感情を育み、知性を身につけていきます。
家の中に軟禁される中で、外の世界への憧れを募らせていくベラ。本を読み、学び、体験を重ねることで人間らしさを獲得していく一方で、自分が人造人間であることに悩み、苦しむ姿も描かれます。
自由を求め、真実を探し求めるベラの物語は、人間とは何か、生きるとは何かを問いかけるテーマと絡み合いながら展開していきます。エマ・ストーンが魅せる、純真さと知性、強さと脆さを併せ持つベラの表情は印象的です。
マックス・マッキャンドルス: 医学生
マックス・マッキャンドルス(演: マーク・ラファロ)は、ゴッドウィン・バクスターの助手を務める医学生です。師であるゴッドウィンを深く尊敬し、彼の研究に心酔しています。
ゴッドウィンからベラを観察し、言動を記録するよう命じられたマックスは、当初はベラを研究対象としてしか見ていません。しかし、知性を身につけ、人間らしさを発揮していくベラと接するうちに、次第に彼女に惹かれ、恋心を抱くようになります。
マックスの揺れ動く感情は、科学と倫理、理性と感情の間で引き裂かれる彼の葛藤を象徴しています。
ゴッドウィン・バクスター: ベラの”創造主”
ゴッドウィン・バクスター(演: ウィレム・デフォー)は天才的な外科医であり、独創的な研究者です。医学の可能性を追求するあまり、倫理の境界線を踏み越えることも厭いません。
自殺したヴィクトリアという女性の遺体に、その胎児の脳を移植して蘇生させたゴッドウィンは、ベラ・バクスターという人造人間を生み出しました。科学の勝利に酔いしれる一方で、ベラを実験体とも娘とも見なす彼の態度には、独善的で倒錯した愛情も感じられます。
ウィレム・デフォーが演じる、理性と狂気の間を揺れ動くゴッドウィンもまた、この物語の大きな見どころの1つです。
「哀れなるものたち」のあらすじを簡潔に紹介【ネタバレあり】
前半: ベラの誕生と成長
医学生のマックス・マッキャンドルスは、天才外科医ゴッドウィン・バクスターの助手となり、彼の家に住み込むことになります。そこで出会ったのが、ゴッドウィンが蘇生させた人造人間の女性、ベラ・バクスターでした。
マックスはゴッドウィンに命じられ、言葉を覚え、知性を急速に身につけていくベラを観察し、記録する役割を担います。ベラに親近感を抱き始めたマックスは、彼女に読み書きを教えたり、外の世界について語ったりと、次第に彼女に惹かれていきます。
一方、ベラは日々知性を深め、自我に目覚めていく中で、外の世界への憧れを強くしていきました。
中盤: ベラの駆け落ちと旅
マックスとの結婚が決まった矢先、弁護士ダンカン・ウェダバーンと出会ったベラは、彼に誘惑され、結婚の直前に駆け落ちしてしまいます。自由を求めたベラは、ダンカンとともにリスボンへ渡り、解放感に満ちた日々を送ります。
しかし、ベラの自由奔放な振る舞いに困惑したダンカンは、彼女を監禁し、クルーズ船での旅に出ます。船上でハリーやマーサといった新しい出会いに刺激を受けたベラは、貪欲に知識を吸収し、人生の意味を問うようになります。
一方、ギャンブルに溺れるダンカンとベラの関係は悪化の一途をたどります。最終的にパリで下船した2人は、貧しい生活を送ることになり、ベラは売春婦として働き始めます。その過程でベラは売春宿の女性トワネットから社会主義思想に触れ、新たな世界観を得ていきました。
後半: 正体を知ったベラの決断
病に伏せるゴッドウィンとマックスから呼び出しを受け、ベラは故郷に戻ります。そこでベラは、ゴッドウィンから衝撃の事実を告げられます。自分が妊婦ヴィクトリアの遺体に、その胎児の脳を移植して生み出された存在だと知ったベラは、大きなショックを受けます。
そこへヴィクトリアの夫であるアルフィー・ブレシントン将軍が現れ、ベラを連れ去ろうとします。自らの出自と向き合ったベラは、ゴッドウィンの遺志を継ぎ、医学の道を歩むことを決意。アルフィーを撃退し、人間とは何かを問い続ける旅に出るのでした。
「哀れなるものたち」の見どころ
シュール&ブラックユーモア
『哀れなるものたち』の大きな魅力の1つは、ヨルゴス・ランティモス監督独特のシュールな世界観とブラックユーモアです。不条理でありながらどこか現実味のある世界で、登場人物たちは皆一癖も二癖もある個性的な面々。
人間と人造人間、生と死、倫理と科学といった重厚なテーマを、諧謔と皮肉を交えて軽やかに描いていくユーモアセンスは、ランティモス作品ならではの特徴です。観る者を置いてけぼりにしながらも、どこか引き込まれずにはいられない、型破りな物語の面白さを堪能できます。
ヴィクトリア朝の独特な世界観
19世紀後半のヴィクトリア朝英国を思わせる美術や衣装、そして独特の世界観も本作の大きな見どころです。ゴシック様式の建物や蒸気機関、礼儀作法などは当時の時代性を感じさせつつも、人造人間の存在など非現実的な設定が絶妙に組み込まれています。
ヴィクトリア朝らしい閉塞感や因習的なイメージと、SF的な世界観が見事に融合し、オルタナティブなヴィクトリア朝という新鮮な時代設定を作り上げています。現実とファンタジーの交錯する、唯一無二の世界観を楽しめます。
人間とは何かを問う群像劇
『哀れなるものたち』は、人間とは何かという普遍的なテーマを問うている点でも秀逸な作品です。人造人間のベラが人間らしさを獲得していく成長物語を通して、人間存在の本質が探求されます。
科学と倫理の狭間で揺れ動くマックスとゴッドウィンの姿は、理性と欲望、野心と良心の葛藤を象徴しています。ヴィクトリア朝の家父長的な価値観と、新しい時代の価値観のぶつかり合いも興味深いポイントです。
愛と自由、生と死をめぐる登場人物たちの悩み多き人生模様は、私たち自身の姿を映し出しているようでもあります。個性豊かなキャラクターたちが繰り広げる群像劇は、人間ドラマとしても実に奥深いのです。