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「ベニスに死す」の作品情報
原作と製作陣
本作は、トーマス・マンの同名小説を原作としています。監督は「ルートヴィヒ」などで知られるイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ。脚本はヴィスコンティとニコラ・バダルッコが共同で手がけました。主演のアッシェンバッハ役には英国の名優ダーク・ボガードを起用。ヴィスコンティ監督作品らしい芸術性の高さと、緻密な心理描写が光る秀作となっています。
「ベニスに死す」の評価と受賞歴
本作は発表当時から高い評価を受け、1971年のカンヌ国際映画祭で特別賞を受賞。キネマ旬報の「映画ベスト・テン」でも1971年の外国映画第1位に輝きました。緻密な心理描写と美しい映像、マーラーの音楽の効果的な使用など、あらゆる点で芸術性の高い傑作として広く認められています。ヴィスコンティ監督の代表作の一つであり、映画史に残る不朽の名作と言えるでしょう。
「ベニスに死す」の簡潔なあらすじ【ネタバレなし】
老作曲家の旅
「ベニスに死す」は、老作曲家グスタフ・フォン・アッシェンバッハが静養のためベニスを訪れるところから物語は始まります。作曲に行き詰まりを感じていたアッシェンバッハは、ベニスの美しい風景に触れ、新たなインスピレーションを求めていました。
運命の出会い
ベニスでの滞在中、アッシェンバッハは偶然出会ったポーランド貴族の美少年タッジオに強く心惹かれます。タッジオの美しさに魅了されたアッシェンバッハは、彼に理想の美を見出し、タッジオを追いかけるようになるのです。
「ベニスに死す」の詳細なあらすじ【ネタバレあり】
美少年タッジオとの出会い
ホテルに到着したアッシェンバッハは、ロビーでポーランド貴族の一家と出会います。その中に14歳くらいの美少年タッジオの姿があり、アッシェンバッハは彼の完璧な容姿に心奪われます。古代ギリシャ彫刻のような美しさを持つタッジオに、アッシェンバッハは芸術的なインスピレーションを感じ、彼への親愛の情を募らせていきます。
密かな想いを募らせるアッシェンバッハ
タッジオへの想いを日に日に強くしていくアッシェンバッハは、彼の姿を求めてホテルや浜辺をさまよい歩きます。しかし、年老いた自分が美少年に恋をしている現実に、罪悪感と焦燥感を覚えもします。行き場のない思慕は、やがてアッシェンバッハの精神を蝕んでいきます。
コレラの流行とアッシェンバッハの選択
ベニスでコレラが流行し始めたという情報が、アッシェンバッハの耳に入ります。ホテルの支配人は事実を隠蔽しますが、街の様子から疫病の流行は明らかでした。アッシェンバッハは一時はベニスを去ろうと考えますが、タッジオへの未練から結局踏みとどまります。彼は死の危険を顧みず、ベニスに残ることを選ぶのです。
「ベニスに死す」のラストシーンを解説【ネタバレあり】
タッジオへの想いを胸に息絶えるアッシェンバッハ
コレラが猛威を振るい死の影が色濃くなったベニスにあって、アッシェンバッハの心身は限界に達します。白髪染めや白粉で若作りを施す一方で、彼は衰弱していきます。最期の日、アッシェンバッハは浜辺のデッキチェアに横たわり、海から上がるタッジオを見つめながら、静かに息を引き取ります。彼はタッジオへの密かな想いを胸に、孤独のうちに生涯を終えるのです。
ラストシーンの象徴的な意味
ラストシーンにおけるアッシェンバッハの死は、肉体的なものであると同時に、彼の芸術家としての印象的な死でもあります。タッジオという美の理想に心酔するあまり、現実との乖離を深めていったアッシェンバッハ。彼の最期は、芸術と現実、精神と肉体の乖離を象徴的に示しているのです。また、タッジオが海から陸に上がり、彼方を指差すラストショットには、死後の世界への暗示も読み取れます。
「ベニスに死す」のみどころ:美少年の美しさとベニスの風景
タッジオ役ビョルン・アンドレセンの美貌
本作の大きな見どころの一つは、タッジオ役を演じたビョルン・アンドレセンの圧倒的な美貌です。北欧出身らしい透明感のある肌、金色の髪、凛とした表情は、まさに芸術的な美少年そのもの。古代ギリシャ彫刻を彷彿とさせるその美しさは、アッシェンバッハのみならず観る者をも魅了してやみません。ビョルンの美少年ぶりは本作の芸術的な雰囲気を大いに高めています。
美しくも死の臭いが漂うベニスの描写
もう一つの大きな魅力は、美しくも退廃的なベニスの風景美です。ルキノ・ヴィスコンティ監督は、コレラが蔓延する不気味さが漂う一方で、水の都ならではの美しい街並みを絶妙に切り取っています。ゴンドラが行き交う運河、優雅な建築物、豪奢なホテルの内装などは当時のベニスの美しさを余すところなく映し出しています。また、物語が進行するにつれ死の臭いが色濃くなっていくベニスの変化も印象的です。
「ベニスに死す」の音楽:マーラーの効果的な使用
物語の鍵を握る「アダージェット」
作中で効果的に使用されているのが、グスタフ・マーラー作曲の交響曲第5番アダージェットです。アッシェンバッハの内面や心情を表すかのようにこの曲は何度となく流れ、物語に濃密な雰囲気を与えています。この曲はマーラーが妻アルマへの愛を込めて書いたと言われ、愛の喜びと苦悩が溶け合ったような旋律は、アッシェンバッハの秘めた想いを象徴しているかのようです。アダージェットは、本作を語る上で欠かせない音楽と言えるでしょう。
主人公の心情を表すマーラーの音楽
「アダージェット」以外にも、マーラーの交響曲第3番第4楽章や、第4番第4楽章の一部も印象的に使用されています。これらの選曲はいずれもアッシェンバッハの心の機微を繊細に表現しており、彼の芸術家としての感性の深さや、美に対する憧憬と葛藤を伝えています。音楽一つ一つにも注目しながら鑑賞することで、作品世界がより立体的に感じられるはずです。