動物農場のあらすじを時系列で解説!テーマと見所も紹介

『動物農場』の概要 – 作者と刊行の背景

ジョージ・オーウェルの略歴と代表作

ジョージ・オーウェル(本名エリック・アーサー・ブレア)は、1903年にインド帝国の首都カルカッタで生まれた。両親は英国人で、イートン校で学び、ビルマ(現ミャンマー)で警察官として勤務。その後、パリやロンドンで下層生活を体験。スペイン内戦に参加し、社会主義者として戦うが、共産党の弾圧を目の当たりにし、全体主義に懐疑的になる。
代表作は、スターリン批判の寓話『動物農場』(1945)と、全体主義社会を描いたディストピア小説『1984年』(1949)。他に、自伝的小説『牧師の娘』(1935)、ビルマでの体験をもとにした『ビルマの日々』(1934)など。

『動物農場』執筆の経緯とねらい

『動物農場』は1943〜44年に執筆された。第二次世界大戦中、ソ連はイギリスの同盟国で、英国では親ソ世論が優勢だった。そんな中で書かれたこの作品は、ロシア革命後のソ連の行く末を風刺的に描いた。
オーウェルは、スターリンの独裁体制下で社会主義の理想が裏切られ、革命が悲惨な結末を迎える状況を危惧していた。この作品を通して、全体主義の脅威と権力の腐敗を訴え、人々に警鐘を鳴らそうとしたのである。当初は出版を拒まれたが、1945年8月、戦争終結直前に出版にこぎつけた。

『動物農場』のあらすじを時系列でネタバレ

畜舎会議とメイジャー豚の動物主義

ある晩、老豚のメイジャーが、ジョーンズ氏の農場の動物たちを納屋に集め、人間からの解放を呼びかける。
「人間は我々から富を搾取し、最低限の食料しか与えない。我々動物は団結し、人間を打倒すべきだ。動物は互いに平等になるべきで、二本足の敵と四本足の友を見分けよ」
メイジャーは動物主義の理念を力説し、獣たちに革命の歌「イングランドの獣」を教える。数日後、メイジャーは他界するが、その思想は若い豚ナポレオンらに引き継がれる。

ジョーンズ追放と動物農場設立

メイジャーの死から3ヶ月後、酔っ払って動物の世話を怠ったジョーンズ氏に対し、動物たちが一斉に反乱を起こす。ジョーンズ氏は農場から放り出され、農場の主導権は豚のナポレオン、スノーボール、スクイーラーの手に渡った。
動物たちは農場の名をマナー農場から「動物農場」と改め、納屋の壁に七戒を掲げる。

  1. 二本足の者は敵
  2. 四本足と翼のある者は味方
  3. 動物は衣服を着てはならない
  4. 動物は寝床で眠ってはならない
  5. 動物は酒を飲んではならない
  6. 動物は他の動物を殺してはならない
  7. どの動物も平等である

ナポレオンとスノーボールの主導権争い

人間が去った農場は当初、順調だった。動物たちは自分たちのために働き、収穫も豊作だった。しかしリーダーの豚ナポレオンとスノーボールの対立が表面化する。
スノーボールは風車建設を提案。動物たちの労働を軽減し、電気も得られると主張。だがナポレオンは反対し、むしろ食料増産が先決と訴える。
会議の場では雄弁なスノーボールが支持を集めるが、ナポレオンは密かに9匹の子犬を育て忠実な護衛にしていた。

スノーボール追放とナポレオン独裁

風車建設の是非を問う集会で、スノーボールが熱弁をふるっていると、いきなりナポレオンの飼育した犬が襲いかかる。スノーボールは農場を追放され、ナポレオンが実権を握る。
ナポレオンは風車建設に反対していたが一転して建設を進めると宣言。これに疑問を呈する動物に対し、ナポレオン派の雄弁な豚スクイーラーが、もともとナポレオンのアイデアだったと言い訳する。
こうしてナポレオンの独裁が始まった。動物たちは過酷な労働を強いられ、スノーボールを英雄視する声は弾圧される。その一方で、豚だけは特権階級化していく。

ボクサー奮闘とその報い

農場の労働で中心的な役割を果たしたのは、強靭な馬ボクサーだった。彼は「もっと頑張ろう」「ナポレオン同志は常に正しい」という標語を信じ、黙々と働いた。
だが風車建設中、ボクサーが足を痛める。年老いた彼をナポレオンは療養に出すと約束するが、実際は屠殺業者の車で連れ去らせる。ボクサーは命を捧げて働いたのに、最期はナポレオンに裏切られ、肉として売り飛ばされたのだった
ナポレオンは、ボクサーの治療費を支払ってもらったと嘘をつく。動物たちは疑問を感じつつも、信じるしかなかった。

ネガティブキャンペーンと七戒の改変

スノーボールを悪者にするネガティブキャンペーンが続く一方、七戒が都合よく書き換えられる。
「動物は酒を飲んではならない」が「動物は度を越して酒を飲んではならない」に。
「動物は他の動物を殺してはならない」が「動物は正当な理由なく他の動物を殺してはならない」に変えられる。
豚はベッドで眠り、食事も贅沢になる。ついには「七戒」は「すべての動物は平等だが、ある動物はほかの動物よりももっと平等である」という一文に置き換えられる。
動物主義の理想は次第に色あせ、農場の実態はジョーンズ時代と変わらなくなっていく。

人間化した豚と動物農場の結末

ある日、豚たちが二本足で歩いているのを、他の動物たちは目撃する。しかも、彼らは服を着ていた。
ナポレオンは、農場主の人間たちを招いてパーティーを開く。豚も人間も五十歩百歩、農場の収奪をめぐって言い争う様は、どちらが支配階級か分からないほど似通っていた。
動物農場は、再びマナー農場と名付けられる。七戒は「四本足は良い、二本足はもっと良い」に変わり、動物たちを人間から解放するという理想は完全に崩れ去ったのだった。

『動物農場』の登場人物と寓意

ナポレオンとスノーボールの史実モデル

ナポレオンは、ソビエト連邦の独裁者ヨシフ・スターリンの寓意とされる。ナポレオンが秘密警察(犬)を率いて農場を支配する様子は、スターリンの恐怖政治を彷彿とさせる。
一方、スノーボールは、スターリンのライバルだったレフ・トロツキーがモデル。トロツキーは革命理論家として人気を博したが、スターリンに追放された。スノーボール追放後も農場の失敗の責任を押し付けられる様子は、トロツキーへの攻撃を想起させる。

動物たちに見るロシア革命の寓意

農場の動物たちは、ロシア革命に参加したさまざまな勢力を表している。

  • 豚は革命の指導者である共産党幹部
  • 馬は労働者階級。特にボクサーは献身的なプロレタリアート
  • ロバのベンジャミンは懐疑的な知識人
  • 犬は秘密警察、羊は盲信的な大衆
  • ニワトリは小農、牝馬モーリーは貴族
  • カラスのモーゼは宗教(ロシア正教会)

『動物農場』の思想とテーマ – 風刺と警鐘

動物主義の矛盾 – 理想と現実の乖離

『動物農場』は、社会主義の理想が現実によって裏切られる過程を風刺的に描く。
動物主義の掟は崇高だが、特権階級である豚によって次々と改ざんされる。平等のはずが、豚は他の動物より「より平等」になり、動物主義は有名無実化する。オーウェルは、革命の理想と残酷な現実の乖離を浮き彫りにしている。

スターリン批判 – 独裁政治の恐怖

オーウェルの最大の批判対象は、スターリンの独裁政治だ。ナポレオンというカリスマが絶対権力を握り、粛清と恐怖で牛耳る様は、まさにスターリン時代の縮図だ。
『動物農場』は、個人崇拝と独裁がいかに危険か、民衆がいかに盲従しやすいかを如実に示した。スターリンへの風刺を通して、全体主義の脅威を訴えかけている。

人間と豚の類似 – 権力の堕落


ラストシーンで豚と人間の区別がつかなくなるのは象徴的だ。当初、豚は人間への反抗を掲げて革命を指導した。だが権力を握るや否や、彼らは人間と同じように振る舞い始める。
動物を解放する革命家が、いつの間にか動物を抑圧する権力者と化す。絶対権力が必ず腐敗するという歴史の教訓を、オーウェルは『動物農場』で示唆しているのだ。

『動物農場』の文学的評価と影響

イギリス文学史における意義

『動物農場』は当初、左翼の間で批判を浴びた。だが冷戦の進展とともに、この作品の先見性が評価されるようになる。
寓話という形式をとりながら、政治の本質を鋭くえぐり出した点で、イギリス文学史に残る傑作の一つと言える。オーウェルの簡潔で印象的な文体も高く評価されている。

反ユートピア文学の系譜

『動物農場』は、『1984年』と並ぶ反ユートピア文学の金字塔だ。20世紀前半のザミャーチンの『われら』、ハクスリーの『すばらしい新世界』の系譜を継ぎ、その後のブラッドベリの『華氏451度』などにも影響を与えた。
これらの作品に共通するのは、一枚岩の集団主義への警鐘だ。『動物農場』は寓話という形で、全体主義の危険性を訴える。

現代にも通じるメッセージ性

『動物農場』から半世紀以上たった現在も、この作品の教訓は色褪せない。20世紀にはナチスやソ連など全体主義国家が猛威を振るったが、今なお世界の様々な地域で独裁政権が存在する。
民主主義が後退し、ポピュリズムが台頭する昨今、『動物農場』の警告は私たちに突きつけられている。

まとめ:『動物農場』が伝える教訓

『動物農場』を通して、ジョージ・オーウェルは独裁体制の問題点を様々な視点から指摘した。
まず、動物主義の理想と現実の乖離が際立つ。当初の平等社会はいつしか豚の独裁に変質する。これは社会主義革命の理想と、スターリン時代のソ連の現実を風刺したものだ。

次に、絶対的権力の危険性も浮き彫りになる。ナポレオンの独裁政治は、スノーボールへの個人攻撃、ボクサーの粛清、七戒の改ざんなど、残虐な手段で維持される。オーウェルは全体主義の恐怖を克明に描いている。

さらに、権力の堕落も重要なテーマだ。革命を指導した豚たちは、いつしか人間と同じように振る舞う。革命家が権力者に成り下がる様は、権力の倫理的腐敗を示唆する。

『動物農場』が警鐘を鳴らすのは、こうした「理想の裏切り」「権力の暴走」「為政者の堕落」だ。これらの教訓は、スターリン批判という文脈を超え、現代にも通じる普遍的なメッセージとなっている。

私たちは、シンプルな理想に惑わされることなく、為政者をしっかりと監視し、民主主義を守らなければならない。オーウェルが『動物農場』で訴えたかったのは、そうした主権在民の思想だったのかもしれない。