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『失われた時を求めて』の基本情報
『失われた時を求めて』は、フランスの作家マルセル・プルーストによる長編小説です。1913年から1927年にかけて全7篇が刊行され、作者の死後に完結しました。原文では全3,000ページ以上、日本語訳でも400字詰め原稿用紙換算で約10,000枚にも及ぶ大作で、「最も長い小説」としてギネス世界記録にも認定されています。
20世紀を代表する文学作品の一つとして国内外で評価が高く、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』と並んで近代小説の金字塔と称されます。同時に難解で知られ、新しい文学表現を確立した前衛的な小説としても知られています。
『失われた時を求めて』は、ごく簡単に言えば、語り手「私」の半生を回想録的に綴った物語ですが、そこには19世紀末から20世紀初頭のフランス社会の諸相や、恋愛、芸術、時間、記憶など、人生の普遍的なテーマが盛り込まれています。
以下では、各篇のあらすじを詳しく解説した後、『失われた時を求めて』の魅力や読む価値についてご紹介します。
『失われた時を求めて』のあらすじを7篇に分けて解説!
第1篇「スワン家のほうへ」
幼い「私」は、ある夜のこと、母親から寝る前のおやすみのキスをもらえないことに激しく動揺する。その夜から数十年後、紅茶に浸したマドレーヌ菓子を口にした瞬間、「私」は幼少期の思い出の中に引き戻される。それは「私」が叔母の家で夏を過ごしていたコンブレーの町での出来事だった。
当時コンブレーには、「スワン家のほう」と「ゲルマントのほう」という2つの散歩道があった。ある晩、近所に住むシャルル・スワンが「私」の家を訪れる。スワンはコンブレーでは珍しいユダヤ人だが、音楽や絵画に造詣が深い。スワンがオデットという女性との出会いと別れを経験したことが、15年前に遡って描かれる。
第2篇「花咲く乙女たちのかげに」
数年後、「私」の一家はスワンの娘ジルベルトと親しくなる。思春期を迎えた「私」は、スワンの妻となったオデットの美しさにも心惹かれる。
しかし、ジルベルトとの恋は成就せず、「私」は祖母と一緒に保養地のバルベックへ向かう。そこで出会ったのが、「花咲く乙女たち」と呼ばれる少女の一団だった。中でもアルベルチーヌという少女に「私」は恋心を募らせるが、彼女に拒絶されてしまう。
第3篇「ゲルマントのほう」
成長した「私」はゲルマント公爵夫人に憧れを抱き、貴族の社交界に出入りするようになる。しかしその裏で、祖母の病状が悪化し、やがて他界する。
一方、「私」はアルベルチーヌと再会を果たし、次第に親密な関係を築いていく。
第4篇「ソドムとゴモラ」
作品の大きなテーマの一つである同性愛が前面に出てくる巻である。「私」の知人で男爵のシャルリュスが、同性愛の世界に生きる人物として登場する。
また、「私」は恋人アルベルチーヌにも女性関係があるのではと疑い始め、嫉妬に苦しむようになる。彼女を愛しながらも、その素性の知れなさに不安を募らせていく。
第5篇「囚われの女」
アルベルチーヌへの不信感から、「私」は彼女をパリの自宅に監禁同然に住まわせ、行動を監視するようになる。2人の関係は次第にすれ違いが生じていく。
そんな中、作曲家ヴァントゥイユの七重奏曲を聴いた「私」は、いつの日か自分もこのような芸術作品を生み出せるのだろうかと思いを巡らせる。
第6篇「消え去ったアルベルチーヌ」
ある日、アルベルチーヌは「私」の許を去ってしまう。必死に彼女を取り戻そうとする「私」だったが、アルベルチーヌは馬の事故で急逝したという報せが届く。
失意の「私」はヴェネツィアを旅するが、次第にアルベルチーヌへの未練は薄れていく。一方、ジルベルトはロベール・ド・サン=ルー侯爵と結婚する。
第7篇「見出された時」
数年後、第一次世界大戦を経て、「私」は老境に差し掛かっていた。ある日ゲルマント邸の中庭で躓いた「私」は、ヴェネツィアのサン・マルコ寺院で同じように躓いた記憶が蘇る。
こうした不随意の記憶の連なりから、「私」はかつて味わった歓喜の正体が、時間を超越した真の自己と一体化する感覚だったことに気づく。そしてその本質を言葉によって再現することこそ、「私」の使命だと悟るのだった。
『失われた時を求めて』の4つの魅力
革新的な文体と手法
『失われた時を求めて』の文章は、一つ一つが長大で、重層的な比喩表現を多用しているのが特徴です。登場人物たちの微細な心理描写と相まって、ときに読み進めるのが難しく感じられるかもしれません。
しかしそれは、新しい文学表現を切り開くためのプルーストの果敢な挑戦でもあったのです。意識の流れをそのまま言葉にして内面を描く手法は、後のジョイスらにも影響を与えました。
普遍的テーマの探求
作品には恋愛や嫉妬、虚栄心、芸術、時間といった普遍的な主題が渦巻いています。中でも「時」は最大のテーマと言えるでしょう。
辿った軌跡を探ることで、人生の本質に迫ろうとするプルーストの試みは、100年経った今も色あせることがありません。読者は自身の人生を重ねて、作品世界に共感するはずです。
同性愛をめぐる人間ドラマ
同性愛は、作品の重要なモチーフの一つです。第4篇「ソドムとゴモラ」では男性同士の関係が、第5篇以降ではアルベルチーヌを巡る女性同士の関係が、それぞれ印象的に描かれます。
禁忌とされていた時代にあって、プルーストは人間の性の多様性を真摯に見つめ、ドラマチックに物語化することに成功しました。現代の読者の目から見ても新鮮に映る、先駆的な表現と言えるでしょう。
20世紀文学に与えた影響
『失われた時を求めて』が文学史に与えた影響は計り知れません。精神分析的手法による意識の探求や、内的独白の文体は、ジョイス、ウルフ、フォークナーらモダニズム文学の源流となりました。
さらに戦後の新しいロマン主義や、藤本由香里『天使の卵』のような現代日本文学にもその遺伝子は継承されています。プルーストを読むことは、20世紀文学全体を読み解く第一歩なのです。
以上、『失われた時を求めて』のあらすじと魅力をご紹介しました。膨大な分量に尻込みせず、まずは気軽に第1篇を手に取ってみてください。貴方の読書体験が、かつてないほどに豊かなものになるはずです。