注文の多い料理店とは？宮沢賢治の代表作を簡単に紹介
注文の多い料理店の作者・宮沢賢治の生涯と文学観
注文の多い料理店の作者、宮沢賢治は、1896年に岩手県花巻市に生まれました。実業家の家庭に育った賢治は、盛岡高等農林学校（現・岩手大学農学部）で農学や地質学を学び、教員や農業指導者として働く傍ら、詩や童話の創作に打ち込みました。
賢治の文学は、独自の宗教観や自然観に基づいています。彼は法華経の信仰に傾倒し、自然界のあらゆる生命を平等に尊重する思想を持っていました。その世界観は、ファンタジックでありながら、現実社会への鋭い批評性を秘めた作品群を生み出しました。
賢治は生前、詩集『春と修羅』や童話集『注文の多い料理店』などを自費出版しましたが、同時代からの評価は低く、経済的にも恵まれない生活を送りました。しかし、没後に彼の作品が再評価され、世界的に知られる文学者となりました。
注文の多い料理店が発表された経緯と評価
「注文の多い料理店」は、1924年に発表された短編小説です。この作品は、賢治が41篇の童話を収めた童話集『注文の多い料理店』に収録されており、その表題作として知られています。
発表当時、この風変わりな作品は一般には理解されませんでしたが、賢治没後、その独創性と文学性が認められるようになりました。現在では、宮沢賢治の代表作の一つとして高く評価され、学校の教科書にも取り上げられています。
「注文の多い料理店」は、不条理な設定と展開で読者を驚かせながら、人間社会の矛盾や欲望を風刺的に描いた作品です。また、食べ物を通して生命の神秘を問いかける内容は、賢治文学の核心を突いていると言えるでしょう。
注文の多い料理店のあらすじ①：二人の紳士と西洋料理店
狩猟をする二人の紳士
東京の山奥を二人の紳士が歩いていました。彼らは狩猟していましたが、一向に成果を上げることができません。そのうち山は不気味な雰囲気を放ち始め、連れてきた二匹の猟犬が泡を吹いて死んでしまい、付き添いの漁師ともはぐれてしまいます。二人はがっかりして山から引き上げることにしましたが、お腹が減っていることに気づきます。そして、山の中で西洋風の一軒家を発見するのでした。
山猫軒の不思議な雰囲気
看板には「西洋料理店 山猫軒」と書いてありました。店の外観は、青い瀬戸の煉瓦造りで、玄関には山猫の剥製が飾られています。この不気味なインテリアが、物語に独特の雰囲気を与えています。怪しい雰囲気のお店ではありましたが、「なたもどうかお入りください」という但し書きを見て、空腹の二人は店内へと入っていくのでした。
二人が店内に入ると、再び扉が現れました。そこには誰もおらず、扉の上に「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」と書かれています。二人は「繁盛していて注文がたくさん来るお店なのだろう」と解釈して、その先に進みます。
こうした描写は、読者に不安と期待を抱かせ、物語への関心を高める効果があります。
作品冒頭部分は、ストーリーの基本設定を提示しつつ、謎めいた雰囲気で読者を引き込む巧みな構成になっています。ここから物語が、現実と非現実の境界を越えていく予感を感じさせるのです。
注文の多い料理店のあらすじ②：注文の多いという本当の意味
いつまでも続く扉
しかし、扉の先にもあるのはまた次の扉でした。扉には、今度は「髪を解いて、履物の泥を落として下さい」という注意書きのもとに手鏡とブラシが置かれていました。二人は指示に従い扉を開けると、今度は「金属製のものを全て外してください」と書かれていました。二人は店のこれらの指示がおかしいとは感じていたものの、好意的に解釈して店の奥へと進んでいきます。最終的に二人は、「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください」と書かれた扉までたどり着きました。
客を料理して食べる店
二人はついに、ここは「料理を客に提供する店」ではなく「客を料理して食べる店」であることに気づきます。二人は急いで入り口側の扉から逃げようとしましたが、扉は開きません。奥の扉からは二つの目が鍵穴から二人を見つめます。あまりの恐ろしさに二人は恐怖で震え、顔はくしゃくしゃになってしまいます。
その時、死んだはずだと思っていた猟犬が2匹、入り口の扉を破って入ってきます。猟犬はさらに奥の扉を打ち破ると、格闘するような音と猫の悲鳴のような声が聞こえ、「山猫軒」は霧のように消えました。
二人は助かり、無事に東京に帰ることができましたが、恐怖でくしゃくしゃになった顔は、東京に帰っても戻ることはありませんでした。
まとめ：注文の多い料理店のあらすじと作品の魅力
宮沢賢治の短編小説「注文の多い料理店」は、不思議な西洋料理店を舞台に繰り広げられるファンタジックな物語です。作品は、二人の紳士が料理店で体験する非日常的な出来事を通して、人間の欲望や倫理観の問題を浮き彫りにしています。
同時に、この作品は単なるエンターテインメントではありません。風刺や寓話の技法を巧みに用いることで、人間性や文明社会の矛盾を鋭く突いているのです。欲望と倫理の対立、自然に対する人間の傲慢さ、そして近代化がもたらす弊害への警鐘は、現代社会にも通じる普遍的なテーマと言えます。
宮沢賢治の文学は、ファンタジーの外皮の下に、深い哲学的思索と社会批評を内包しています。注文の多い料理店は、そうした賢治文学の特徴を余すところなく体現した作品だと言えるでしょう。
この小説の魅力は、エンターテインメント性と思想性の絶妙なバランスにあります。非現実的な世界を通して現実世界の本質を照射する手法は、読者の想像力を刺激すると同時に、自己の内面を見つめ直す機会を与えてくれます。
注文の多い料理店は、読み応えのある物語であると同時に、示唆に富んだ思索の書でもあるのです。この作品を通して、私たちは宮沢賢治の創造力の豊かさと、彼の思想の深淵を味わうことができるでしょう。
