【有島武郎の代表作】或る女のあらすじを詳しく解説!女性の自立を描いた物語

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有島武郎「或る女」とは?

或る女の基本情報

有島武郎の長編小説「或る女」は1919年に刊行された作品です。女性の自立と真の生き方を追求した問題作として、近代文学史に名を残す作品の一つと言えるでしょう。作中では女主人公・葉子の半生が描かれ、彼女の人生の転機を軸に、女性の社会的地位や恋愛・結婚のあり方が鋭く問われていきます

有島武郎の生涯と代表作

或る女の作者・有島武郎は1878年生まれで、小説家・評論家・戯曲家として大正期文壇で活躍しました。有島は幼少期から非凡な才能を示し、第一高等学校、東京帝国大学と進学。卒業後は小樽商業学校の教師を務めつつ、「カインの末裔」で鮮烈なデビューを飾ります。
或る女以外の代表作には、「小さき者へ」や「生まれ出づる悩み」などがあります。有島は自然主義の流れを汲みつつも、独自の告白的手法を用いるなど、新たな文学の境地を切り拓いた作家と言えるでしょう。私生活では平塚らいてうとの恋愛や、大正デモクラシー運動に心酔するなど、型破りな人生を送りました。1923年、有島は45年の生涯を閉じています

或る女のあらすじ【完全ネタバレ】

或る女のストーリー概要

「或る女」は、早月葉子という美貌の女性を主人公とした物語です。葉子は10代で作家の木部孤笻と結婚するも、彼の俗物的な性格に幻滅し、離婚。妖婦と呼ばれるほどの破天荒な恋愛遍歴を重ねます。一方、母の勧めでアメリカ在住の実業家・木村貞一との結婚を決意。日本を逃れ、華やかなアメリカでの生活を夢見て船出します。

しかし船上で、婚約者がいるにもかかわらず、船の事務長・倉地と恋に落ちた葉子は、木村への失望から、倉地と同棲生活を始めます。だが、その関係は世間に知れ渡り、二人は非難の的に。窮乏に陥った葉子は、送金だけさせた木村の金で贅沢三昧。倉地は売国行為にまで手を染めます。

次第に葉子は、病に冒された身と、妹への嫉妬に苛まれるようになります。最後は錯乱し、妹と倉地への暴力から病院送りに。そんな中、倉地が失踪し、独りぼっちになった葉子は、激しい苦痛と孤独の中で物語を終えるのでした。

登場人物の解説

  • 早月葉子:美貌だが、恋多き妖婦と呼ばれる主人公。波乱の人生を送る。
  • 木部孤笻:葉子の最初の夫。俗物的な作家で、葉子に愛想を尽かされる。
  • 木村貞一:葉子の婚約者。アメリカ在住の実業家だが、葉子に金だけ搾り取られる。
  • 倉地:葉子の恋人。船の事務長だったが、葉子との同棲後、売国行為に手を染める。
  • :葉子に思いを寄せる青年。葉子のために留学を断念し、帰国。報われぬ恋。
  • 古藤:木村の友人。葉子の言動に苦言を呈するが、聞き入れられない。

時系列順のあらすじ

  1. 葉子、木村との結婚を決意し、船出。船上で倉地と恋に落ちる。
  2. アメリカで木村に幻滅し、倉地と同棲。贅沢三昧の日々を送る。
  3. 倉地との仲は世間にばれ、二人は非難を浴びる。倉地は売国行為に手を染める。
  4. 葉子は病に冒され、妹への嫉妬に囚われ始める。
  5. 倉地が失踪し、葉子は錯乱。妹と倉地に暴力を振るい、入院させられる。
  6. 葉子、孤独と病の苦痛の中で物語終わる

或る女の読後感・評価

或る女の魅力

有島武郎の「或る女」は、女性の自立と解放を強く訴えた大正期の先駆的な作品と言えるでしょう。主人公の葉子が辿る悲劇的な半生を通して、当時の家父長制社会の矛盾や女性の生きづらさが浮き彫りになります。男尊女卑の時代にあって、女性の内面を真摯に描こうとした有島の筆致からは、女性解放への熱い思いが伝わってきます。
同時に本作は、恋愛と自立の両立を目指した静子の葛藤を丹念に追うことで、女性の複雑な心理や願望を鮮やかに描き出すことにも成功しています。不遇な境遇に置かれながらも、自らの人生を切り拓こうとする葉子の姿は、今なお多くの読者の共感を呼ぶのではないでしょうか。

或る女に対する評価

ただし、或る女の描く女性像については疑問の声もあります。波乱に満ちた人生の末に命を終える葉子の最期は、ともすれば悲劇のヒロインとして矮小化されるリスクを孕んでいるようにも感じられます。真の自立とは、困難な現実に向き合い、それでも生き抜く強さではないかと。その意味で、葉子の選択した道は果たして自立と言えるのか、議論の余地が残ります。

また、登場人物の造形や恋愛描写には、やや図式的で平板な印象を拭えない面もあるかもしれません。多様な価値観や背景を持つ人物たちの織りなす、もう少し複雑な人間模様があっても良かったかもしれません。

とはいえ、大正デモクラシーが息づく時代にあって、女性の視点に立ち、恋愛と自我の確立を模索した有島の眼差しは、今なお新鮮で胸を打つものがあります。静子の生きざまに込められた、女性解放への熱いメッセージは色褪せることなく、現代の読者の心に響き続けているのです。

有島武郎のおすすめ作品

カインの末裔

有島武郎のデビュー作にして、師・夏目漱石に才能を認められた力作が「カインの末裔」です。無知ゆえに罪を隠す主人公の生き様を描く物語で、有島文学の原点とも言える一編。自意識に目覚めた青年の姿は、同時代の知識人の心情を代弁していたと評価されています。

小さき者へ

代表的な中編小説「小さき者へ」は、有島が自らの子供たちに向けて書き残した手記ともされる作品です。

大正時代の文学について

大正時代の文学の特徴

大正時代(1912〜1926年)は、日本の近代文学が大きく花開いた時期と言えます。前期には田山花袋や島崎藤村らが自然主義文学を牽引し、写実的な筆致で人間の機微や生の断面を活写しました。やがて大正中期になると、有島武郎、志賀直哉らが「白樺派」を形成。人道主義の思想に基づき、自我や恋愛をめぐる繊細な心理を探求する、私小説的な作風が主流となります。
一方、芥川龍之介は写実と空想が交錯する独特の文体を開拓。「羅生門」に代表される歴史小説でも才能を発揮しました。谷崎潤一郎は耽美的な文体と倒錯的世界観で文壇に異彩を放ち、川端康成、横光利一、梶井基次郎らは感覚の機微を言葉で表現する「新感覚派」を築きました。大正末期には、のちのモダニズム文学へと接続する革新的な潮流が勃興していたのです。

大正時代の主な作家と作品

大正期の主な作家と代表作を挙げると、以下のようになります。

  • 島崎藤村破戒」「新生」
  • 田山花袋「蒲団」「重右衛門の最後」
  • 有島武郎「或る女」「生れ出づる悩み」
  • 志賀直哉暗夜行路」「和解」
  • 芥川龍之介羅生門」「地獄変
  • 谷崎潤一郎痴人の愛」「春琴抄
  • 川端康成「田園の憂鬱」「針と硝子と霧」
  • 横光利一「機械」「春は馬車に乗って」
  • 梶井基次郎檸檬」「冬の日」

詩歌の分野でも、萩原朔太郎、室生犀星、若山牧水らが台頭し、口語自由詩の確立に貢献しました。

このように大正文学は、明治の文語的・理想主義的な文学観を乗り越え、新しい感性と多元的な表現を獲得した時代でした。自我の解放と内面の探求を軸に、近代日本文学の層の厚みを増した時期と言えるでしょう。