【ネタバレあり】映画「アラビアのロレンス」のあらすじを時系列順に徹底解説!

「アラビアのロレンス」の基本情報

映画の概要とキャスト

「アラビアのロレンス」は、1962年に公開されたイギリス映画で、伝説的な映画監督デヴィッド・リーンが手掛けた歴史スペクタクル作品です。主人公T.E.ロレンス役を演じたのは、当時無名に近かった若手俳優ピーター・オトゥール。鮮烈な印象を残すその演技は、一躍彼を世界的スターダムに押し上げました。

T.E.ロレンスの生涯とアラビア遠征

本作の原案となったのは、T.E.ロレンス自身による著書『知恵の七柱』。第一次世界大戦中、ロレンスが中東のアラブ人と共にオスマン帝国からの解放を目指して戦った実体験が綴られています。映画はこの回顧録を基に、アラビア半島の壮大な風土を背景に、ロレンスの半生を雄大なスケールで描き出しました。
当時としては類を見ない大長編で、上映時間は228分に及びました。共演には、アレック・ギネスやアンソニー・クインら名優が名を連ねています。全編リアルな現地ロケにこだわり、イギリスとアラブ両陣営の複雑な駆け引きを丹念に描いた意欲作と言えるでしょう。

「アラビアのロレンス」のあらすじ:前半部

ロレンスのアラビア到着

第一次世界大戦中の1916年、イギリス軍の地図作成課に勤務していたT.E.ロレンス中尉は、アラビア語とアラブ文化に精通していることから、アラビア半島へ派遣されることになりました。彼の任務は、オスマン帝国からの独立を目指すアラブ人勢力と接触し、イギリスへの協力を取り付けることでした。灼熱の砂漠に降り立ったロレンスは、不慣れながらもラクダに乗って旅を続けます。

アラビア人との出会いとの交流

旅の途中、ロレンスはベドウィンの案内人と井戸で水を汲んでいたところ、ハリト族のアリという男に出会います。案内人が無断で井戸の水を使ったことで、アリは彼を射殺してしまいました。しかしロレンスには罪はないとして、アリは彼に同行を申し出ます。ロレンスはこれを断り、一人で旅を続けることを選びました。

その後、ロレンスはアラブ人勢力の基地に到着しますが、そこはオスマン帝国軍に攻撃されていました。ファイサル王子と面会したロレンスは、アラブの独立闘争を支援することを約束します。

アカバ攻略作戦の立案と遂行

ロレンスは、オスマン帝国軍が支配する港湾都市アカバを奇襲するため、内陸からの電撃作戦を立案します。50人のアラブ人勇士を率いて砂漠を横断し、防備の手薄な内陸側からアカバを攻略する作戦でした。

途中、ロレンスは仲間の一人ガシムが行方不明になったことに気づきます。危険を顧みず一人で捜索に戻ったロレンスは、ガシムを発見し救出することに成功しました。この行動から、ロレンスはアラブ人たちから”彼ら自身の一員”として認められることになります。

さらにアカバ近くで、ハウェイタット族の長アウダと出会ったロレンスは、彼らをアラブ独立のために味方につけることに成功します。しかし、部族間の争いから悲劇が起こり、ガシムがアウダ族の一人を殺害してしまいます。軍の統制を保つため、ロレンスはガシムを処刑せざるを得ませんでした。

1917年7月、アカバはアラブ軍の奇襲によって陥落しました。海に面した要塞の大砲は全て役に立たず、イギリス軍の支援もあってアカバは簡単に落ちたのです。

過酷な砂漠の横断シーン

アカバ陥落後、ロレンスはシナイ砂漠を横断してスエズ運河のイギリス軍司令部へ急行します。アカバでの勝利を報告し、今後のオスマン帝国軍への牽制作戦について協議するためでした。

過酷な砂漠の旅の途中、部下の一人ダウドが流砂に飲み込まれて命を落としてしまいます。疲労困憊の様子で司令部に到着したロレンスでしたが、アカバ陥落の報告を受けた将校たちを唖然とさせました。

その後、ロレンスはアラブ人の少年ファラージと共に、軍の施設内のカフェに入ります。現地の衣装を纏ったまま堂々と振る舞うロレンスに、周囲は驚きを隠せません。彼がファラージにもレモネードを注文したことは、アラブの独立がイギリス軍の単なる戦略ではなく、ロレンス自身の信念でもあることを示していました。

「アラビアのロレンス」のあらすじ:後半部

ダマスカス陥落とアラブ民族主義の高まり

ロレンスは少佐に昇進し、イギリスから武器の提供を受けたアラブ軍と共に、オスマン帝国軍への攻勢を強めていきます。中でもヒジャーズ鉄道の襲撃は大きな成果を上げ、ロレンスの活躍は世界的に知られることになりました。

しかし作戦遂行中、部下のファラージが不慮の爆発事故で負傷してしまいます。彼の苦しみを見かねたロレンスは、已むなくファラージを射殺するという苦渋の決断を下すのでした。

さらなる情報を得るため、ロレンスは敵情視察として単身ダルアーへ向かいます。現地人に扮した彼でしたが、不運にもオスマン帝国軍に捕らえられ、ベイ将軍から拷問を受けることになってしまいました。

ロレンスの心境の変化と葛藤

過酷な経験を経て、ロレンスは戦いに懐疑的になっていきます。一時は軍を去ることも考えますが、上層部からの要請もあり、再びアラビアへと戻ることを決意しました。

しかしその間にも、列強諸国間ではアラブ地域の分割を定めた秘密協定が結ばれていました。理想と現実の乖離に悩まされながらも、ロレンスはダマスカス奪取に向けて軍を再編成し、進軍を開始したのです。

解放後のアラビアとロレンス

ダマスカスを目前にしたとき、ロレンスの軍はオスマン帝国軍の残党と遭遇します。彼らがタファス村で住民を虐殺していたことを知ったアラブ軍は、怒りに駆られて捕虜を一切取らずに皆殺しにしてしまいました。

そしてついに、アラブ軍はイギリス軍に先んじてダマスカスを解放することに成功します。しかし戦火が去った街では、アラブ人間の対立が表面化し始めていました。ロレンスが理想としたアラブの統一は、もはや困難になりつつありました。

幻滅したロレンスは、「もう二度と砂漠を見たくない」と語り、アラビアを去る決意を固めます。指導者となったファイサルや、イギリス軍の将校らにとって、ロレンスの存在は次第に「厄介者」として扱われるようになっていたのです。

英雄として称えられながらも、自らのアイデンティティの分裂に苦しむロレンス。アラブへの想いを胸に秘めつつ、彼は失意のうちにアラビアを後にしたのでした。

映画「アラビアのロレンス」の見どころ

壮大なスケールの砂漠シーン

本作最大の魅力は、何と言ってもその圧倒的スケールの映像美にあります。イギリスの片田舎から単身砂漠へやってきたロレンスが、果てしない地平線に佇む場面は絶景そのもの。ヨルダンやモロッコなど中東各地で敢行されたロケーションの雄大さは、今なお色あせることがありません。

ピーター・オトゥールの名演技

主人公ロレンス役のピーター・オトゥールの演技も光ります。192cmの長身を活かし、砂漠に響き渡る雄弁な声でアラブの人々を鼓舞する姿は、カリスマ性に溢れています。一方で繊細な心の機微も見事に表現。戦いに翻弄され苦悩する青年将校の姿を、オトゥールは全身全霊で体現したのです。

アラビアをめぐる政治的駆け引き

本作では、アラビアを舞台にしたイギリスとオスマン帝国、そしてアラブ人の三つ巴の政治的駆け引きが興味深く描かれています。表向きはアラブの独立を支援するイギリスですが、裏では自国の利権確保を狙っている様子が随所に垣間見えます。ロレンスの理想と現実の乖離を浮き彫りにするその描写は、本作に奥行きを与えています。

ロレンスの複雑な心理描写

アラブに心酔し、その解放に身を捧げながらも、祖国イギリスへの義理立てから葛藤するロレンス。彼の伝記的事実を下敷きにしつつ、映画はその揺れ動く内面を丹念に描き出します。戦いの中で純真な青年将校が「英雄」へと変貌を遂げ、最後は政治の駒として翻弄される様は、まさに悲劇的とも言えるでしょう。

「アラビアのロレンス」の歴史的背景

第一次世界大戦下の中東情勢

映画の舞台となっているのは、第一次世界大戦真っ只中の中東地域です。当時のオスマン帝国は「ヨーロッパの病人」と呼ばれるほど弱体化しており、イギリスやフランスなど列強は中東の覇権を狙っていました。一方アラブ人の間でも民族自決の機運が高まり、ロレンスの登場はまさにこの時代の転換点に位置づけられるのです。

イギリスとアラビアの関係

劇中のイギリスは、表向きこそアラブ独立を支持する姿勢を見せていますが、その実、戦後の中東支配を目論んでいました。石油利権を筆頭に、同地域の戦略的価値の高さに目をつけていたのです。ロレンスはアラブ贔屓と見なされながらも、結局はイギリスの意向に逆らえずジレンマに苛まれる―この点が作品の重要なテーマと言えるでしょう。

オスマン帝国とアラブ民族主義

一方、当時オスマン帝国の支配下にあったアラブ人たちは、次第に民族の独立を求めて蜂起するようになります。ロレンスと行動をともにしたファイサル王子なども、その代表的存在でした。しかし実際には部族間の対立も根深く、ダマスカス陥落後は内戦状態に陥ってしまうのです。列強の思惑とアラブ人の理想の間で板挟みとなるロレンスの苦悩が、ここに集約されています。

「アラビアのロレンス」の制作秘話と評価

製作の経緯と苦難

「アラビアのロレンス」の製作は難航の連続でした。企画から完成まで実に5年を要しています。メインロケーションとなったヨルダンやスペインでは、砂嵐による撮影中断や、現地部族との軋轢など数々のトラブルに見舞われました。さらにはヨルダン王がクーデターで暗殺されるという事件まで起きるなど、まさに映画さながらの展開だったと言えるでしょう。

公開当時の反響と興行的成功

試練を乗り越えて完成した「アラビアのロレンス」は、公開当時から大々的に話題となりました。第35回アカデミー賞では作品賞こそ逃したものの、監督賞や撮影賞など7部門を受賞。興行的にも空前の大ヒットとなり、伝記映画の金字塔として一時代を画したのです。現在も不朽の名作として、世界中のシネフィルから根強い支持を集め続けています。

映画史に残る不朽の名作

「アラビアのロレンス」の最大の魅力は、やはりあの雄大な砂漠のスペクタクルにあると言えるでしょう。それは人間の営みの儚さを思い知らせると同時に、無限の可能性をも感じさせてくれます。T.E.ロレンスという稀代の人物の生涯を通し、民族の自決や個人と国家の関係性など、今なお普遍的なテーマに迫った点も本作の価値を不易のものにしているのかもしれません。

まとめ:「アラビアのロレンス」が語り継がれる理由

「アラビアのロレンス」が半世紀以上経った現在も色あせない魅力を放ち続けているのは、何よりその世界観の普遍性ゆえでしょう。T.E.ロレンス個人の伝記であると同時に、世紀転換期の人類の苦悩の物語という普遍的テーマを内包しているからです。イギリス帝国主義とアラブ民族自決が交錯した大状況の中で、一人の青年将校が理想と現実の狭間で揺れ動く姿。我々はその悲劇的ともいえる生涯に、いつの時代も共感せずにはいられないのです。壮大な映像美に彩られた名シーンの数々、ピーター・オトゥールの名演、ロレンスという人物が内包する複雑な魅力。それらが渾然一体となった稀有な傑作だからこそ、「アラビアのロレンス」は今なお多くの人を魅了し続けているのだと言えるでしょう。