【ゲーテの名作】『若きウェルテルの悩み』のあらすじと読み所を世界一わかりやすく解説

『若きウェルテルの悩み』の基本情報

作者はドイツ文学の巨匠ゲーテ

『若きウェルテルの悩み』は、ドイツ文学を代表する作家ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749〜1832)による書簡体小説です。ゲーテは『ファウスト』などの名作で知られ、ドイツ文学史に偉大な足跡を残しました。本作は、まだ若き日のゲーテが、自身の体験をもとに書き上げた初期の代表作になります。

1774年に出版された書簡体小説


『若きウェルテルの悩み』は、1774年に出版されました。舞台は同時代のドイツで、主人公ウェルテルが親友に宛てた手紙という体裁で綴られていきます。書簡体小説という形式をとることで、ウェルテルの内面をリアルかつ克明に描写することに成功しています。当時の文学潮流” 疾風怒濤運動 “の影響を色濃く反映した作品とされ、ゲーテの名を一躍有名にした作品です。

『若きウェルテルの悩み』のあらすじ

第1部:ウェルテルがロッテへの恋に悩む

物語の主人公は、感受性豊かな青年ウェルテル。彼はある田舎町に滞在中、ダンスパーティで美しい娘シャルロッテと出会い、強く惹かれます。シャルロッテの澄んだ瞳に魅了され、その純真な人柄に心奪われていくウェルテルですが、彼女には婚約者がいました。ウェルテルはシャルロッテへの思いを日増しに募らせながらも、彼女の身を案じ、友人としての付き合いを続けます。内に秘めた想いに苦しみながらも、シャルロッテの家を頻繁に訪れる日々が続くのでした。

第2部:ロッテを諦めきれず、ウェルテルは自殺する


シャルロッテは婚約者アルベルトと結婚し、ウェルテルは絶望のどん底に
突き落とされます。彼はシャルロッテを忘れようと、町を離れて官吏として働き始めますが、空虚な日々に耐えられず、再び戻ってきてしまいます。今や人妻となったシャルロッテに、ウェルテルは以前のような親しい態度を取れなくなっていました。

禁断の恋に苦悩するウェルテルは、次第に憔悴していきます。世の中がしがらみに思えて息が詰まり、自然に対しても感動を覚えなくなります。絶望し、孤独に陥った彼の脳裏に去来するのは、シャルロッテとの心中のイメージでした。最後にウェルテルは、アルベルトから拝借した拳銃で自らの命を絶ちます。そのことを知ったシャルロッテは、激しく動揺し悲しみに暮れるのでした。

『若きウェルテルの悩み』の登場人物

ウェルテル:主人公の青年。叶わぬ恋に苦しみ自殺する

ウェルテルは、感受性が非常に強く、ひたむきで真摯な青年です。自然を愛し、シェイクスピアに心酔するなど、ロマンティストとしての特質を備えています。恋するシャルロッテとの結ばれない恋に苦しみ、現実との調和を図れないまま、破滅へと突き進んでいきます。理想主義者でもあるウェルテルは、周囲との軋轢に悩まされ、孤独を深めていきます。彼の人物像には、作者ゲーテ自身の投影も指摘されています。

シャルロッテ:ウェルテルが恋する女性。婚約者がいる

シャルロッテは、ウェルテルが出会った町娘。妹たちの面倒を見る優しさとしっかり者の性格、美貌と教養を兼ね備えた理想的な女性として描かれています。ウェルテルに好意は抱いているものの、アルベルトとの婚約を貫き通す誠実さを持ち合わせています。ウェルテルの感情の高ぶりを敏感に感じ取りつつも、彼との距離を保とうとする葛藤が描写されています。作者ゲーテが想いを寄せたシャルロッテ・ブッフがモデルとなった人物です。

アルベルト:ロッテの婚約者で、のちに夫となる人物

シャルロッテの婚約者アルベルトは、ウェルテルとは対照的に、冷静沈着で理性的な性格をしています。シャルロッテを一途に愛しており、ウェルテルにも紳士的に接しますが、彼を快く思っていないのは明らかでした。ウェルテルに拳銃を貸し与えるなど、彼を自滅へと向かわせてしまう存在でもあります。現実主義者のアルベルトと、空想家のウェルテルは、対立する価値観の象徴とも言えるでしょう。

『若きウェルテルの悩み』のテーマと背景

激情と理性の相克を描いた、疾風怒濤時代の代表作

本作は、1770年代に興った” 疾風怒濤運動 “という文学思潮の旗手的存在です。理性を偏重する啓蒙主義への反発から生まれたこの運動は、感情の解放を掲げ、天性の息吹を重視しました。ウェルテルの生き方は、まさしくこの運動の申し子と言えるでしょう。彼は感情を爆発させ、世間の規範に背を向けます。対して、良識の化身とも言えるアルベルトは、理性の代弁者的存在。この両者の対立構図は、疾風怒濤の時代精神そのものと言えます。

ゲーテ自身の体験がモデルに

作者ゲーテは、ウェルテルを描くにあたり、自身の体験を色濃く投影しています。ゲーテ自身、シャルロッテ・ブッフという婚約中の女性に恋をしていました。ウェルテルのシャルロッテへの思慕は、ゲーテのシャルロッテへの思いの投影だと考えられています。

この個人的体験を下敷きにしつつ、同時代の思潮をも反映させたことで、ウェルテルという人物は、時代の寵児としての普遍性を獲得したのです。ゲーテにとって、この作品の執筆は、自身の恋愛体験の昇華であり、また芸術家としての出発点とも言えるでしょう。創作と人生が深く結びついた、ゲーテ文学の原点がここにあります。

『若きウェルテルの悩み』の意義と影響

「ウェルテル効果」:この小説を読んで自殺する若者が続出

本作は発表されるや否や、空前のベストセラーとなりました。”ウェルテル熱”とも呼ばれる社会現象が巻き起こり、感受性豊かな若者たちの共感を呼びました。中にはウェルテルの服装を真似る者や、彼になぞらえて自殺する者まで現れたと言います。こうした過激な反応は、”ウェルテル効果”と呼ばれ、メディアの影響力の恐ろしさを示す代名詞にもなりました。物語の持つリアリティが、現実世界に大きな波紋を生んだ事例と言えるでしょう。

ゲーテの代表作にして、ドイツ文学の金字塔

『若きウェルテルの悩み』は、ゲーテの出世作であり、生涯にわたって最も愛された作品の1つです。後に『ファウスト』などの大作を生み出すゲーテの才能を、いち早く世に知らしめた記念碑的な小説とも言えます。

ドイツ文学史を見渡しても、ここまで大きな反響を呼んだ作品は類を見ません。19世紀のロマン主義文学の先駆けとなったほか、広くは青春文学や恋愛文学のお手本としても読み継がれてきました。今なお世界中で愛され続ける本作は、まさにドイツ文学の金字塔と呼ぶにふさわしい作品なのです。