【わかりやすい】宮沢賢治の童話「オツベルと象」のあらすじと読み解き方

宮沢賢治の童話「オツベルと象」をご存知でしょうか。正直で純朴な象が、利己的な人間オツベルに騙されるという切ないストーリー展開に、多くの読者が心を揺さぶられてきました。しかしこの作品は、悲しい物語というだけでは終わりません。仲間と助け合うことの大切さ、他者を思いやる心の尊さなど、私たちに様々なメッセージを投げかけてくれているのです。 今回は「オツベルと象」のあらすじを、時系列に沿ってわかりやすく解説していきます。加えて、作品に込められた象徴やテーマ、宮沢賢治ならではの文体の魅力などにも迫ってみましょう。家族で読み聞かせをしたり、大人が読み返してみたりするのにもおすすめのこの作品。あなたも「オツベルと象」の世界に浸って、登場人物たちと一緒に笑ったり、泣いたり、成長したりしてみませんか。

「オツベルと象」とはどんなお話?作品の概要を紹介

宮沢賢治が書いた児童文学の傑作

「オツベルと象」は、日本の文学者・宮沢賢治が1923年に発表した児童文学です。生前は「注文の多い料理店」などの作品で知られていた宮沢賢治ですが、没後に「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」といった童話の名作の数々が発見され、現在では日本児童文学の巨匠として高く評価されています。

宮沢賢治の童話の特徴は、独特の言葉遣いと豊かな感受性、そして自然への畏敬の念と生命への慈しみに溢れている点です。なかでも「オツベルと象」は、ファンタジックな世界観と心温まるストーリー展開で、子供から大人まで広く愛される作品となっています。登場人物の心情が丁寧に描かれ、思いやりの心の大切さを訴えかける内容は、宮沢賢治児童文学の真髄と言えるでしょう。

「オツベルと象」のあらすじを時系列でわかりやすく解説

地主オツベルと白象の出会い

オツベルは非常に優秀な経営者で、学校くらいの広さの大きな小屋に最新の稲処理機械を6台も持っていました。その小屋で16人の農民を雇い、働かせている間、彼はビフテキや熱々のオムレツを昼食に楽しんでいました。

ある日、白い象がその小屋に現れました。農民たちは驚き、白象を見て見ぬふりをしましたが、オツベルは違っていました。彼は興味がないふりをしつつ、白象を手に入れるための計略を巧みに実行していました。その白象は、籾が歯に当たる感覚を楽しんでいて、何も知らずにオツベルの「こっちにいたらどう?」という誘いに乗ってしまいます

白象を騙すオツベル

オツベルは白象を自分のものにすることに成功しました。20馬力にも匹敵する働き者の白象を手に入れ、オツベルは大いに満足しました。彼は白象に「時計はいるか?」と尋ね、時計をプレゼントしました。最初は「象には必要ない」と断った白象ですが、時計を身に着けると「これはなかなかいいね」と喜んでしまいました。

その直後、オツベルは「鎖も必要だろう」と言い、100kgの重い鎖を白象の前足に装着しました。さらにオツベルは靴を勧め、靴を履かせた後に、400kgの分銅を後ろ足に取り付けました。白象はそれにも気付かず、「これはなかなかいいね」と再び喜びました。

翌日、時計も靴も消え、残されたのは鎖と分銅だけでした。この状況をオツベルの計略と知らず、白象はオツベルに指示された仕事を楽しそうにこなしていました。最初は10把の藁をもらっていた白象でしたが、徐々に8把、7把、5把と量が減っていったのです。

助けを求める白象

白象は笑うことができず、時折、赤く鋭い眼でオツベルがかつていた場所を見下ろしていました。白象はわずか3把の藁を食べながら、サンタマリアに苦しみを訴え、助けを求めました。これに対し、オツベルはさらに厳しく白象を扱いました。

ある夜、白象は藁も食べずに地面に座り込み、「もう、さよなら、サンタマリア」とつぶやきました。すると、月が「さよならだ?」と問い返し、仲間に助けを求めることを勧めました。白象は「紙や筆がない」と答えると、赤い着物を着た一人の子供が突然現れて、白象に紙と筆を渡しました。

その間、山にいた象の仲間たちは囲碁をして遊んでいましたが、白象からの手紙を読んで一斉に立ち上がり、怒りの声を上げました。議長の象が「オツベルをやっつけよう」と叫ぶと、他の象たちもその呼びかけに応じました。そして、嵐のように林を抜け、野原の向こうに見えたオツベルの屋敷の黄色い屋根に向かって、彼らの怒りは爆発しました。

象たちの行進

オツベルがカラスの夢にうなされている昼下がり、外で何か大きな音がしたので、農民たちは門の外に出て確認しました。目の前には象の大群が迫っているのが見えました。慌ててオツベルに報告すると、彼は冷静に「小屋の戸に丸太を置いて白象を閉じ込めろ」と指示しました。

農民たちは巻き添えを避けたい一心で、腕に汚れた白いタオルやハンカチを巻き、降参の意思を示しました。象の群れがオツベルの屋敷に到着したとき、屋敷を囲む塀は鉄とセメントで固く造られており、簡単には越えられませんでした。しかし、象たちは仲間を助けに使い、塀を乗り越える作戦を練りました。

塀を覗くと、オツベルが飼っていた犬が驚いて気絶してしまいました。オツベルはピストルを使いましたが、象たちには全く効果がなく、鳴るだけでした。そして、5頭の象が一斉に塀を乗り越えると、オツベルは押し潰されてしまいました

象たちが白象から鎖や分銅を外すと、白象は「助かったよ」とさびしく笑いました

「オツベルと象」の登場人物とストーリーの舞台

オツベルの性格や特徴

「オツベルと象」の主人公オツベルは、金持ちの地主として登場します。彼は非常に強欲で意地悪な性格をしており、自分の利益のためなら手段を選ばない、ずる賢い人物として描かれています。

象との出会いの場面では、オツベルは象を騙して自分の思い通りに動かそうとします。嘘をつくことに何の躊躇もなく、むしろ他者を騙すことに喜びを感じているような印象さえ受けます。金銭的な豊かさを自慢し、弱い立場の者を支配しようとするオツベルの姿は、当時の社会における特権階級の典型とも言えるでしょう。

白象の外見や性質

物語の舞台が東南アジアであることから、オツベルが出会った白象は、アジアゾウだと考えられます。大きさについては詳しい記述はありませんが、オツベルを背中に乗せて走り回れるほどの大きさがあることが窺えます。

この白象は、オツベルの騙しに簡単に引っかかってしまうほど純朴で正直な性格をしています。素直すぎる性質が仇となり、オツベルに利用されてしまう白象はの姿からは、いじらしさすら感じられます。

物語の中盤で、白象はオツベルの嘘に気づきますが、既にオツベルの計略に嵌った後でした。白象とオツベルの力関係は圧倒的に白象が不利な状態にあり、白象は自力では抵抗できない弱い立場に置かれています。ただし最後は仲間の象たちと協力することで、オツベルから解放されることができました。純朴で正直な象の性質が、仲間との絆を生んだと言えるでしょう。

「オツベルと象」に込められた象徴とメッセージ

「オツベルと象」には、自分勝手で利己的な行動がもたらす弊害と、他者を思いやる心の大切さが象徴的に描かれています。

オツベルの行動は、強者が弱者を搾取し、自分の利益のために他者を騙すことの象徴と言えます。一方で、純朴で正直な象が受ける苦しみは、社会的弱者が強者から一方的に搾取される姿を表しているのかもしれません。

しかし物語の結末で、象は仲間と協力することでオツベルから解放されます。これは、困難な状況でも仲間を信じて助け合うことの大切さ、そして弱い立場の者同士が手を取り合えば、強者に対抗できるというメッセージを含んでいます。

「オツベルと象」は、一見単純な童話ですが、登場人物の行動と心情の機微を通して、他者を思いやる心の尊さを訴えかける、示唆に富んだ作品なのです。

宮沢賢治らしい文体が生み出す物語の雰囲気

宮沢賢治の作品では、擬音語や比喩表現が効果的に用いられています。「オツベルと象」でも、それらの表現技法が読者の想像力を刺激し、生き生きとした情景を思い描かせます。

例えば、象が地面を踏みしめて歩く様子は「グララアガア、グララアガア」と擬音語で表現されています。象の重々しい足音が直接的に伝わってくるような臨場感があります。

「オツベルと象」の読み解きのまとめ

子供だけでなく大人も楽しめるファンタジー

「オツベルと象」は、一見すると子供向けの童話のように感じられます。善悪がはっきりとしていて、最後には正義が勝利する筋立ては、児童文学の王道とも言えるからです。

しかし宮沢賢治の物語は、子供だけでなく大人も楽しめる、重層的な魅力を持っています。オツベルと象という対照的なキャラクターの存在は、大人の読者に現実社会の矛盾を想起させずにはいられません。強者と弱者、自己利益と思いやり。それらの対立構造は、童話の枠を超えた普遍的なテーマと言えます。

また、純朴な象が仲間と共に苦境を乗り越える姿は、現代社会を生きる大人たちにこそ、勇気と希望を与えてくれるのではないでしょうか。弱い立場であっても、信頼できる仲間と助け合えば、困難に立ち向かえる。そんな物語からのメッセージは、子供だけでなく、大人の心にも響くはずです。

宮沢賢治が紡ぐファンタジーの世界は、リアリティを超えた幻想性を持ちつつも、読者の心に寄り添う普遍性を秘めています。だからこそ「オツベルと象」は、子供から大人まで、幅広い層に愛される作品となっているのです。

家族で一緒に読みたいおすすめの名作

「オツベルと象」は、家族みんなで共有したい童話の名作だと言えます。お子様との読み聞かせはもちろん、大人が自分で読み返しても、新たな発見や感動が得られる作品だからです。

お子様には、正直に生きることの大切さや、仲間を信じる勇気を教えてくれるでしょう。大人には、他者を慈しむ心を忘れずにいることの意義を、改めて問いかけてくれます。家族それぞれが、自分なりの視点で物語の意味を咀嚼できるはずです。

「オツベルと象」は、感動を共有できる物語であると同時に、家族の対話を深めるツールとしても使用できる、一石二鳥の作品なのです。ぜひ家族みんなで読んでみては如何でしょうか。宮沢賢治が紡いだファンタジーの世界を通して、家族の絆がより強く結ばれることを願っています。