【あらすじ】宮沢賢治の童話「雪渡り」を徹底解説!狐の子たちとの心温まる交流物語

宮沢賢治と「雪渡り」について

宮沢賢治の生涯と代表作

宮沢賢治は、大正から昭和初期にかけて活躍した詩人・童話作家です。岩手県花巻市に生まれ、生涯のほとんどを故郷で過ごしました。代表作に詩集「春と修羅」や童話「注文の多い料理店」「セロ弾きのゴーシュ」などがあり、独自の宗教観や自然観に基づく作品世界は今なお多くの読者を魅了しています。

「雪渡り」の概要と特徴


「雪渡り」は、大正13年に発表された童話です。雪深い冬の森を舞台に、人間の子供と狐の子供たちの交流を描いた物語で、宮沢賢治らしい自然への愛と生命尊重の思想が随所に表れています。擬人化された動物たちの何気ない会話や歌の中に、人生の真理や道徳的なメッセージが込められているのが特徴です。

「雪渡り」あらすじ – 前編「小狐の紺三郎」

四郎とかん子、凍った雪原で遊ぶ

ある冬の日、四郎とかん子の兄妹は凍てつく雪原へ遊びに出かけます。辺り一面銀世界で、まるで一枚の板のように固く凍った雪の上を、二人は元気に駆け回ります。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
リズミカルな掛け声を楽しそうに叫びながら、すっかり冬の森に魅了されてしまうのでした。

小狐の紺三郎との出会い

すると、雪原の向こうから白い狐の子が現れました。「紺三郎」と名乗るその狐は、ずいぶん利口そうで、人間の子と狐の子が不思議な会話を繰り広げます。
「狐こんこん白狐、お嫁ほしけりゃ、とってやろよ。」
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」
お互いの口上が面白おかしく紡がれ、すっかり打ち解けた様子の三人なのでした。

狐の学校の幻燈会に招待される


意気投合した紺三郎は、四郎とかん子を狐の学校の「幻燈会」に招待します。
「幻燈は第一が『お酒をのむべからず。』これはあなたの村の太右衛門さんと、清作さんがお酒をのんでとうとう目がくらんで野原にあるへんてこなおまんじゅうや、おそばを喰べようとした所です。」
紺三郎の説明に二人は大いに興味をそそられ、ぜひ見に行こうと心に決めるのでした。

「雪渡り」あらすじ – 後編「狐小学校の幻燈会」

狐の学校にやってきた四郎とかん子

約束の日、四郎とかん子は胸をときめかせながら狐の学校へとやってきます。白銀の森に囲まれたその場所は、まるで異世界のようでした。校庭では狐の生徒たちが無邪気に遊ぶ姿が。そこへ紺三郎が晴れ姿で現れ、二人を幻燈会の会場へと案内します。
「今夜は大切な二人のお客さまがありますからどなたも静かにしないといけません。」
紺三郎の言葉に、四郎とかん子の特別感は一層高まるのでした。

幻燈会で上映される3つの作品

いよいよ幻燈会が始まり、スクリーンには紺三郎が予告した3本の作品が映し出されます。
『お酒をのむべからず』では、酔った太右衛門と清作が野原の怪しげなものを食べようとする滑稽な姿が。
『わなに注意せよ』では、狐のこん兵衛が罠にかかってしまう様子が。
『火を軽べつすべからず』では、こん助という子狐が火遊びで危険な目に遭います。
狐たちの失敗談は、人間社会の教訓としても通じるものばかりでした。

狐の子たちの歌と踊り

上映の合間には、紺三郎が作った歌を狐の子たちが合唱します。
「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、野原のまんじゅうはぽっぽっぽ。
酔ってひょろひょろ太右衛門が、去年、三十八、たべた。」
リズミカルな歌と踊りに、四郎とかん子も思わず手拍子。会場は一体となって盛り上がりました。

人間の子と狐の子の温かな交流

幻燈会の醍醐味は、何といっても人間の子と狐の子の心の交流でした。
紺三郎はお土産に黍団子を振る舞い、大切なことを教えてくれます。
「狐のこしらえたものを賢いすこしも酔わない人間のお子さんが喰べて下すったという事です。そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄の悪い評判をすっかり無くしてしまうだろうと思います。」
四郎とかん子は感動し、新しい絆を胸に会場をあとにしました。

「雪渡り」の魅力と考察

雪の世界の幻想的な描写

宮沢賢治の筆は、冬の森の美しさを存分に描き出します。キラキラと輝く白銀の世界、木々に下がる氷柱など、自然美への讃歌があふれています。
「青白い大きな十五夜のお月様がしずかに氷の上山から登りました。雪はチカチカ青く光り、そして今日も寒水石のように堅く凍りました。」
この幻想的な舞台が、狐の子たちとの不思議な交流をいっそう引き立てているのです。

無邪気に交流する子供たちの心の通い合い

人間の子と狐の子、一見何の接点もない者同士が言葉を交わし、心を通わせ合う様は、とてもチャーミングです。
お互いの素直さ、無邪気さが、自然に友情を芽生えさせていきます。種族を超えた、子供らしいあたたかな交流が物語の根底を流れています。

狐の生徒たちの律義な生き方

「狐の生徒はうそ云うな」「狐の生徒はぬすまない」「狐の生徒はそねまない」と歌う狐の学校生徒たち。
彼らの誠実さは、大人たる人間が忘れがちな、生き方の基本を教えてくれます。
動物たちの純粋無垢な姿を通して、「正直」「誠実」といった道徳的価値観を説いているのです。

自然と生きとし生けるものへの愛


人間も動物も、みな対等にいのちあるものとして描かれるこの作品。自然の中で生かされている私たちは、ほかの生命をも慈しむべきだと教えているようです。
宮沢賢治の世界観の根底には、日蓮仏法の影響もあると言われています。「雪渡り」には、そうした自然観・生命観が色濃く反映されているのです。

宮沢賢治の他のおすすめ作品

「注文の多い料理店」


人間と動物の立場が逆転した不思議なレストランを舞台に、風刺とユーモアを効かせながら、殺生や差別への警鐘を鳴らす作品。

「セロ弾きのゴーシュ」

孤独なセロ弾きの青年と動物たちとの心温まる交流を描く。音楽を通して紡がれる、人と自然の調和のストーリー。

「風の又三郎」


風と共に旅する少年の成長物語。賢治ならではの自然賛歌と、理想主義的なロマンが味わえる。