【あらすじ】大人も子どもも楽しめる『かいじゅうたちのいるところ』の魅力とは?

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『かいじゅうたちのいるところ』とは?

絵本の概要と出版の経緯

『かいじゅうたちのいるところ』は、アメリカの絵本作家モーリス・センダックによって1963年に出版された絵本です。翌年の1964年にはコールデコット賞を受賞し、世界中で約2000万部を売り上げる大ベストセラーとなりました。

この作品は、主人公の少年マックスが、いたずらをして母親に叱られた夜、想像の世界に旅立つファンタジー絵本です。独特の絵柄と、子どもの内面世界を巧みに表現したストーリーが特徴的で、発表当初から高い評価を得ています。

日本での翻訳と出版について

日本では1966年に初めて翻訳され、『いるいる おばけが すんでいる』というタイトルでウエザヒル出版から出版されました。この時の翻訳は七五調の文体で書かれていました。

その後、1975年に神宮輝夫による新訳が冨山房から出版され、現在広く知られているタイトル『かいじゅうたちのいるところ』が誕生しました。神宮は「Wild Things」という原題を「かいじゅう」と訳すことで、子どもにも読みやすく、絵のイメージにも合う言葉を選びました。この翻訳は100万部以上を売り上げる人気作となっています。

『かいじゅうたちのいるところ』のあらすじ

主人公マックスの冒険

主人公のマックスはある夜、オオカミの着ぐるみを着て大暴れします。壁に釘を打ったり、カーペットを泥だらけにしたりとやりたい放題。母親に「かいじゅうみたいだね」と言われ、夕食抜きで寝室に閉じ込められてしまいました。

怒ったマックスでしたが、不思議なことに部屋が森になり、そこから海へと通じる小舟が現れます。マックスは小舟に乗り込み、長い航海の末、「かいじゅうたちのいるところ」へとたどり着くのです。

かいじゅうたちとの出会いと別れ

そこは、牙をむき出しにしたかいじゅうたちがうようよいる不思議な島でした。マックスは意気揚々と言います。「おれはかいじゅうたちの王さまだ。おまえたち、おれとおどれ」。すると、かいじゅうたちは彼を王様に祭り上げ、いっしょに踊り、遊び、うたを歌います。

しかし、マックスはふと我に返り、ひとりぼっちの寂しさを感じ始めます。かいじゅうたちに「もう帰る」と告げ、再び長い航海に出て、自分の部屋へと戻っていくのでした。

物語の結末と教訓

現実世界に戻ったマックスの部屋には、叱られて残されていた夕食が温かいまま置かれていました。マックスは冒険の余韻に浸りながら、夕食を食べ始めます。母の愛情を感じながら。

『かいじゅうたちのいるところ』は、子どもの内なる葛藤や成長、親子の絆といったテーマを描いた作品です。母親に叱られ孤独を感じたマックスが、想像の世界での冒険を通して自己を見つめ直し、最後には母親の愛に気づくというストーリーには、多くの教訓が込められています。

『かいじゅうたちのいるところ』の魅力

子どもの冒険心と想像力を刺激する物語

『かいじゅうたちのいるところ』の大きな魅力は、主人公マックスの冒険を通して、子ども読者の好奇心と想像力を存分に刺激する点にあります。オオカミの着ぐるみを着て大暴れする姿は、子どもの内なる野生や反抗心を表しており、多くの子どもが共感できるでしょう。

また、マックスが想像の世界に旅立ち、かいじゅうたちと出会うシーンは、非日常的で刺激的な雰囲気に満ちています。絵本の独特なタッチで描かれる世界観は、子どもの心を捉えて離しません。まさに「めくるめく冒険」を体験できる一冊と言えます。

親子の絆を描いた心温まるエピソード

『かいじゅうたちのいるところ』のクライマックスでは、マックスが冒険の世界から現実へと帰還する姿が印象的に描かれます。かいじゅうの王様になり、自由気ままに過ごしていたマックスでしたが、「ひとりぼっち」の寂しさに気づき、家族のもとへと戻っていくのです。

そして、部屋に戻ると、最初は非情に思えた母親が、冷めないように夕食を取っておいてくれたことに気づきます。これは、母親の変わらぬ愛情の表れであり、親子の絆を描いた心温まるエピソードと言えるでしょう。いたずらを叱られた経験のある子どもなら、このラストシーンにグッと胸を打たれるはずです。

美しいイラストレーションと独特な世界観

センダックの手がける挿絵は、『かいじゅうたちのいるところ』の大きな見どころの一つです。線画をベースとしながらもディテールが細かく、独特の質感が物語の世界観を見事に表現しています。悪童マックスの生き生きとした表情や、かいじゅうたちの個性的な風貌などは、子どもの想像力を大いに刺激するでしょう。

また、現実世界とマックスの空想世界とで挿絵のタッチを変えているのも特徴です。空想シーンは荒々しく、生命力に満ちあふれた雰囲気で描かれる一方、現実世界は淡い色調で穏やかな印象となっています。メリハリのある絵柄は、物語の魅力を一層引き立てていると言えるでしょう。

子育てに活かせる『かいじゅうたちのいるところ』の教訓

子どもの感情表現の大切さ

『かいじゅうたちのいるところ』に登場するマックスは、現代の子どもたちに通じる感情の機微を見事に体現しています。時にイライラしたり、反抗的になったりするマックスの姿は、まさに等身大の子どもそのもの。この絵本は、そんな生々しい感情表現を肯定的に描いているのです。

大人から見れば理不尽に思える子どもの怒りも、彼らにとっては真剣で切実なもの。マックスのように思い切り感情を表に出すことは、子どもの心の発達に欠かせません。保護者が絵本を読み聞かせる際には、マックスの姿を通して、子どもの感情を十分に受け止める姿勢が大切だと気づかされます。

親子のコミュニケーションの重要性

本作では、最初こそマックスと母親の関係が険悪に描かれていますが、ラストではお互いの愛情の深さが印象的に表現されます。母親を悲しませまいと反省し冒険から戻るマックスと、怒りながらも彼を想い夕食を用意する母親。一連のエピソードからは、親子の情愛の結びつきを感じずにはいられません。

『かいじゅうたちのいるところ』は、親子関係のあり方について考えさせられる一冊です。時にぶつかり合うことがあっても、互いを想い合う気持ちを忘れず、コミュニケーションを大切にすることの尊さを教えてくれます。この教訓は、子育て中の保護者にこそ胸に刻んでほしいものです。

子どもの自立心を尊重することの意義

『かいじゅうたちのいるところ』は、子どもの自立心や冒険心を称揚する物語でもあります。マックスは自分だけの力で空想世界に旅立ち、そこで自己実現を果たしていきます。様々な困難に立ち向かい、自分なりの判断で問題を解決していく姿は、子どもの主体性の象徴と言えるでしょう。

保護者は、子どもの自立心を広い心で見守ることが求められます。過干渉になるのではなく、子ども自身の可能性を信じ、時に応援し、時に手を貸すといった関わり方が理想的です。マックスのように自由な心を羽ばたかせられる子どもに育ってほしいと、この絵本は保護者に語りかけているのです。

まとめ:『かいじゅうたちのいるところ』が伝えるメッセージ

子どもの心の成長に寄り添う物語

『かいじゅうたちのいるところ』は、子どもの視点に立ち、彼らの内面世界を丁寧に描写した作品です。怒りや反抗心、寂しさや愛情への渇望など、子どもならではの複雑な感情が、主人公マックスの冒険を通して巧みに表現されています。

子どもはこの物語に感情移入しながら、自分自身の姿を重ねることでしょう。そしてマックスの成長と共に、自分なりの教訓を得ていくはずです。本作は、子ども時代特有の心の揺れ動きに真摯に向き合い、その成長過程に光を当てた、稀有な絵本作品だと言えます。

世代を超えて愛される普遍的なテーマ

『かいじゅうたちのいるところ』は、1963年の発表から半世紀以上経った今なお、世界中の子どもたちに愛され続けています。独特の絵柄や印象的な言い回しだけでなく、親子の絆や子どもの自立心など、普遍的なテーマを持つからこそ、時代を超えて多くの読者の心をつかんでいるのです。

この絵本が提示するメッセージは、今を生きる私たち大人にとっても示唆に富むものがあります。マックスの冒険に感化された子どもたちが、やがて親となり、次の世代へとバトンをつないでいく。『かいじゅうたちのいるところ』が持つ普遍的な価値は、これからも多くの家庭の書棚に受け継がれていくことでしょう。