『ベン・ハー』のあらすじを凝縮!名作の全貌をネタバレ解説

『ベン・ハー』とは?作品の基本情報

チャールトン・ヘストン主演、アカデミー賞11部門受賞の巨編

『ベン・ハー』は、1959年に公開されたアメリカの歴史スペクタクル映画です。監督は名匠ウィリアム・ワイラー、主演はチャールトン・ヘストンが務めました。当時としては破格の製作費1500万ドル(現在の価値にして約130億円)を投じ、4年の歳月をかけて完成させた超大作です。

興行的にも大ヒットを記録し、第32回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞(チャールトン・ヘストン)など11部門を受賞。映画史に残る不朽の名作として高く評価されています。

原作との関係 – ルー・ウォーレスの小説が原作

映画の原作となったのは、19世紀の作家ルー・ウォーレスによる小説『ベン・ハー:キリストの物語』です。出版は1880年で、映画の約80年前にあたります。小説は当時ベストセラーとなり、1900年までに100万部以上を売り上げました。

ウォーレスの大河小説を、脚本家のカール・タンバーグが映画用に脚色。宗教色を薄めて娯楽色を強化し、スペクタクル性に重点を置いた巨編に仕上げました。原作の持つ感動と教訓を残しつつ、現代の観客にも響く普遍的なドラマを見事に映像化したと言えるでしょう。

『ベン・ハー』のあらすじ【序盤】

ローマ帝国下のイスラエルが舞台

舞台は紀元1世紀のイスラエル。当時のイスラエルはローマ帝国の支配下にあり、ユダヤ人たちはローマからの解放を願っていました。

作品の主人公ジュダ・ベン・ハーは名家の貴族ユダヤ人。一方、幼馴染のメッサラはローマ人の軍人となり、出世を求めてエルサレムに赴任してきます。ユダヤを支配下に置こうとするメッサラと、自由を求めるベン・ハーの対立が、物語の発端となります。

幼馴染のメッサラとの再会と決別

幼馴染として親友だったベン・ハーとメッサラ。久しぶりの再会を果たしますが、立場の違いからすれ違いが生じます。

イスラエルの独立を支持するベン・ハーに対し、ローマ帝国の権威を示そうと弾圧政策をとるメッサラ。「ローマに従うよう同胞を説得してくれ」というメッサラの要求を、ベン・ハーは拒絶します。こうして、2人の友情は対立へと変わっていきます。

ベン・ハー、最愛の母と妹と引き離され奴隷の身に

ユダヤの反抗勢力による新総督暗殺未遂事件に、ベン・ハーが巻き込まれます。無実を訴えるベン・ハーでしたが、メッサラは彼を反逆者とみなして投獄。彼の母と妹もろとも地下牢に幽閉します。

ベン・ハー自身は、奴隷として帝国各地を漕ぎ回る戦闘艦に送られる身の上に。最愛の家族と引き離され、過酷な運命をたどることになります。

『ベン・ハー』のあらすじ【中盤】

ローマ軍の将軍に助けられる

奴隷として働かされる中、ベン・ハーはある日、ローマ軍艦隊の将軍クインタス・アリウスに助けられます。マケドニア艦隊との海戦で戦艦が沈没した際、アリウスを救ったベン・ハー。その勇敢さが認められ、自由の身となります。

さらにベン・ハーは、養子としてアリウス家の跡取りにも選ばれます。アリウスに鍛えられ、ローマの市民権と財産を手にしたベン・ハーは、再起への足掛かりをつかみます。

メッサラへの復讐心を胸に故郷へ

ベン・ハーは凱旋将軍としてエルサレムへ戻ります。そこでかつての召使いエスターから、母ミリアムと妹ティルザが獄中で癩病に罹ったことを知らされます。

一方、栄達を極めたメッサラは、ベン・ハーが自由の身となって戻ってきたことを知り、再び彼を陥れる機会をうかがっています。ベン・ハーはメッサラへの復讐を誓い、故郷ユダヤで運命の対決に向けて準備を進めます。

『ベン・ハー』のあらすじ【後半】

メッサラとの因縁の戦車競走

かつてのライバル、メッサラとの決着をつけるため、ベン・ハーはエルサレムで開催される戦車競走に参戦します。槍や鞭でベン・ハーの戦車を妨害するメッサラ。9周にわたる熾烈な戦いが展開されます。

最終ラップ、メッサラの戦車が横転し大クラッシュを起こします。勝利を収めたベン・ハー。一方、メッサラは瀕死の重傷を負います。

勝利を収め、母と妹に再会

メッサラを下したベン・ハーでしたが、母と妹の安否を聞くと、死の谷にいると告げられます。実際には2人はすでに獄中から追放され、死の谷に隔離されていたのでした。

偶然エスターと出会った母娘は、自分たちの悲惨な姿を見せたくないと、ベン・ハーには死んだことにしてほしいとエステルに頼んだのでした。ベン・ハーはメッサラへの復讐を果たしましたが、彼の心に残ったのは虚しさだけでした。

イエスの死とベン・ハーの心の救済

彷徨うベン・ハーでしたが、イエス・キリストと出会います。ローマ兵に捕らえられ、十字架にかけられるイエス。その磔刑の光景は、ベン・ハーの魂を揺さぶります。

イエスが息を引き取ると、大地震と激しい嵐が起こります。この奇跡の出来事によって、ベン・ハーの母と妹の病気は治ります。ベン・ハーは、憎しみと復讐心から解き放たれ、真の平安を得るのでした。

『ベン・ハー』の見どころ3選

スケールの大きな歴史絵巻 – 当時最高の制作費を投入

『ベン・ハー』最大の特徴は、圧倒的なスケール感です。従来の古代劇の数倍の制作費を投じ、幾千人もの出演者を動員。重厚な歴史絵巻を繰り広げました。

「全編の見せ場」とも言われる凱旋シーンでは、8000人のエキストラを動員。列柱の並ぶ荘厳な宮殿や、当時の街並みを克明に再現しています。まさに古代ローマの息吹を感じさせる超大作です。

迫力の戦車競走シーン – 撮影に5週間を要した

メッサラとの戦車競走は、『ベン・ハー』の中でも最も有名なシーンです。カメラを車軸に据え付けて撮影するなど、臨場感あふれる映像を実現しました。

当時のカメラで速度感を表現するのは至難の業でしたが、撮影は実に5週間に及びました。スタントも本物の競走と見紛う迫力で、スリルと興奮が画面いっぱいに溢れる名シーンに仕上がりました。

キリストとの邂逅 – 信仰とヒューマニズムの物語

単なる歴史スペクタクルに留まらない『ベン・ハー』の深い主題は、信仰とヒューマニズムです。ベン・ハーとイエス・キリストとの邂逅が、物語の背景にあります。

イエスの言葉に導かれ、ベン・ハーは復讐心から解放されていきます。最後の場面で流れる「神の恩寵」のテーマ曲は、人間讃歌とも言うべき感動を生み出します。『ベン・ハー』は、人間の尊厳を描いた不朽の名作なのです。

『ベン・ハー』に関する豆知識

『ベン・ハー』は三度目の映画化作品

1959年の『ベン・ハー』は、ルー・ウォーレスの小説の3度目の映画化でした。初の映画化は1907年で、15分ほどの短編サイレント映画。続いて1925年には、ラモン・ノヴァロ主演でMGMが長編映画を製作しています。

ただ、いずれの映画も技術的な限界から、原作の感動を十分に再現できていませんでした。ワイラー監督の『ベン・ハー』は、3度目の正直で、遂に不朽の名作を生み出したのです。

チャールトン・ヘストンとウィリアム・ワイラーの黄金コンビ

ウィリアム・ワイラー監督とチャールトン・ヘストンのコンビは、『ベン・ハー』に先立つ1958年、西部劇の金字塔『大いなる西部』でも組んでいます。当初、ワイラーはヘストンをベン・ハー役に起用するつもりはなかったと言います。

しかし、ヘストンの熱演ぶりを見たワイラーは考えを改めます。ヘストンの端正な風貌と凛々しい演技は、正義感あふれるベン・ハーにぴったりでした。まさに監督と俳優の黄金コンビによる傑作と言えるでしょう。

エリザベス・テーラー、オードリー・ヘップバーンがヒロイン候補だった

ベン・ハーのヒロイン、エステル役は新人のハイヤ・ハラリートが抜擢されました。実はこの役には、当時人気絶頂だったエリザベス・テーラーとオードリー・ヘップバーンの2人が候補に挙がっていました。

しかし、製作陣は「ベン・ハーの恋人役にスターを起用すると、かえって物語の焦点がぼやける」と判断。無名の新人を抜擢することで、あくまで主人公ベン・ハーの物語に徹することができたのです。

ヒロインを脇役に徹させるという英断は、見事に的中しました。華やかすぎない抑えた演技が、ベン・ハーの生き様を引き立てる結果となりました。名作を生むには、キャスティングもさることながら、削ぎ落とす勇気も必要だったのです。

まとめ

『ベン・ハー』は、スペクタクル映画の金字塔であると同時に、人間ドラマの秀作でもあります。権力に屈せず、信念を貫く主人公ベン・ハーの生き様は、現代に通じる普遍的なメッセージを持っています。

「目には目を、歯には歯を」といった同害報復の連鎖を断ち切るためには、憎しみから自由になる勇気が必要です。イエスの説く博愛と寛容の教えは、現代社会が抱える様々な対立を乗り越えるヒントにもなるでしょう。

『ベン・ハー』は、古代ローマという時代背景を借りつつ、人間の尊厳と信仰の自由を訴えかける不朽の名作です。ユダヤの解放を願う若者ベン・ハーの波乱万丈の生涯を通して、私たちは人生の真の意味を問い直すことができるのです。